最新記事

銃規制

モスク乱射事件から1年、ニュージーランドで薄れゆく銃規制への熱意

Recoiling from Gun Control

2020年4月8日(水)16時45分
ブレンダン・コール

銃の買い取り計画では5万6000丁が回収された PHIL WALTER/GETTY IMAGES

<新型コロナの影響で追悼式典が中止になるなど1年前に起きたモスク乱射事件の衝撃は風化、銃規制強化の実現が危ぶまれている>

1年前の3月15日、ニュージーランド南島のクライストチャーチにあるモスク(イスラム礼拝所)2カ所に男が乱入し、51人を射殺、49人を負傷させた。最年少の犠牲者は3歳、最年長は77歳。あまりにむごいテロだった。

警察は現場で5丁の銃を押収した。半自動小銃2丁、ライフル2丁、レバーアクションの銃1丁だ。容疑者のオーストラリア人ブレントン・タラントは2017年11月にニュージーランドの銃免許を取得しており、合法的に武器を買い集めていた。

ニュージーランド政府の対応は素早かった。「アメリカでは20年もかかったことを、彼らはたった数日でやり遂げた」と言うのは、米フロリダ州パークランドの高校で2018年に起きた銃乱射事件をきっかけに若者たちが立ち上げた銃規制運動マーチ・フォー・アワ・ライブズ(私たちの命のための大行進)の活動家ブリアナ・スペインアワーだ。

1週間とたたぬうちに、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は軍隊仕様の半自動小銃やアサルトライフルの販売を禁ずると発表。4月10日には議会で、1人を除く全議員が銃規制法改正案の第1弾に賛成し、半自動小銃とその弾倉などの所持や売買が禁じられた。

同年6月に提出された第2弾では、半年の猶予期間中に国が銃を買い取る計画を発表するとともに、国内にある推定150万丁の銃全てを警察が監視するための厳格な登録制の導入も盛り込まれた。

銃規制派のロビー団体ガンコントロールNZのフィリッパ・ヤスベクは「これで地域社会から銃が一掃されるとは思わないが、今よりずっと安全になる」と語り、銃に対する国民の考え方が変わったと付け加えた。「銃の所有は私権の問題じゃない。銃はその持ち主だけでなく、全ての人に影響を及ぼすものだ」

世論も圧倒的に味方した

しかし、攻勢の後には必ず反動があるもの。事件直後には盤石だったアーダーンへの支持も、今はかなり怪しくなった。国内の銃ロビー団体と野党・国民党が手を組んで、銃の登録制導入に抵抗しているからだ。

クライストチャーチの乱射事件後、ニュージーランド政府の取った迅速な対応はオーストラリアの先例に倣ったものだ。1996年にタスマニアで起きたポートアーサー虐殺事件(35人が死亡)を受けて、オーストラリア政府は厳格な銃規制を導入し、65万丁の銃器を返納させた。結果、死者を伴う銃乱射事件は激減した。1979年から96年までには13件あったが、その後はわずか2件にとどまる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル上院、ルラ政権による歳出削減計画関連の最終

ビジネス

CFPBが米大手3行提訴、送金アプリ詐欺で対応怠る

ワールド

トランプ氏、TikTokの米事業継続を「少しの間」

ワールド

ガザ北部の病院、イスラエル軍による退去命令実行は「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中