モスク乱射事件から1年、ニュージーランドで薄れゆく銃規制への熱意
Recoiling from Gun Control
ニュージーランド射撃競技者協会のフィル・クレジーンは、買い取りの対象が軍隊仕様の半自動小銃以外にまで広げられたことに怒りを表明し、銃を提出した人への金銭的な補償も少な過ぎると語る(買い取り価格は銃の状態に応じて新品の価格の25〜95%とされていた)。
「第2弾の改正案には明確な根拠がなく、特定のイデオロギーで動いているとしか思えない」とクレジーンは言う。「テロ行為を防げなかった政府が、その不手際をごまかすために銃の所有者に責任を転嫁している。うちの会員の多くはそう感じている」
今のところ、ニュージーランドでは警察で「適格」と認められれば銃を所有でき、免許の有効期間は10年だ。また標準的な「Aカテゴリー」の銃であれば所有できる数に上限はない。タラントが乱射で使ったとされる自動小銃AR-15も、かつてはこのカテゴリーに入っていた。
所有者を脅かす情報流出
改正法案に盛り込まれた登録制は、銃の所有者だけでなく、それぞれの銃を追跡可能にする仕組みだ。有意義な変化をもたらすには必要不可欠だと、政府は主張する。
だがCOLFOは登録制に反対だ。「廃案を望む」と、マッキーは言う。「登録データが流出した場合、銃の所有者は身の危険にさらされることになる。私たちはそれを深く憂慮している」。現に、昨年12月には銃の回収に応じた所有者の個人情報が流出し、インターネットでさらされる事件が起きている。
アーダーン率いる労働党政権は今年9月に総選挙を控えている。議会(定数120)の過半数を握り、規制強化の第2弾となる法案を成立させるには連立相手のニュージーランド・ファースト党の協力が欠かせない。
しかしニュージーランド・ファースト党を率いるウィンストン・ピーターズは歴戦のつわもので、胸の内をなかなか明かさないことで知られる。今回もこの男がアーダーンの命運を握ることになる。
クライストチャーチの惨劇から1年が過ぎ、事件の風化が始まっている。記憶を呼び戻す機会と期待された国の追悼式典も、新型コロナウイルスの影響で中止された。
それでも4月末には、あの事件に関する王立委員会の調査報告が出る予定だ。内容次第では、再び銃規制が大きな争点になる可能性がある。
続投を目指すアーダーンとしては、国民が1年前の危機感を取り戻し、銃規制の強化でまとまることに期待したい。最近公開された文書でも再びテロ攻撃が起きる「リスクは高まっている」と述べ、「悲劇の再発を防ぐ」体制の強化を呼び掛けていた。
<本誌2020年4月14日号掲載>
【参考記事】銃規制をできるニュージーランドと、できないアメリカ(パックン)
【参考記事】NZテロをなぜ遺族は許したか──トルコ大統領が煽る報復感情との比較から
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