最新記事

感染症対策

新型コロナ緊急事態宣言で何が変わるか──「ロックダウン」とはどういうものか

2020年4月7日(火)11時15分
松澤 登(ニッセイ基礎研究所)

イタリアのミラノ。全土ロックダウンの間、出歩く市民を取り締まる軍人(3月21日)日本にこうした強制力はない Daniele Mascolo-REUTERS

<「ロックダウン」と聞けば、道路の封鎖や強制的な自宅待機令のイメージがあるが、日本では外出自粛要請や施設・イベントの閉鎖要請や指示ができるだけ。しかし医療崩壊防止には強い効力を発揮する>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年4月2日付)からの転載です。

半月ほど前、新型コロナウイルス感染症対応について書いた研究員の眼「新型コロナ緊急事態宣言の前に」には、想定外に多くの反応をいただいた。事態は当時より切迫してきており、緊急事態宣言を発出するかどうかよりも、発出することを前提として、いつ発出するのか、を中心に議論がなされているように思える。

また、「ロックダウン」「都市封鎖」といった用語が使われるとともに、海外における道路封鎖や、外を出歩く人を取り締まる警官の姿の報道等があいまって強い統制を加えるような印象を与えている。本稿では、緊急事態宣言が発出されたら何が変わるのか、また緊急事態宣言を出すために考えなければならないことを法令にのっとって考えてみたい。

緊急事態宣言は、「新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしているとき、または、そのおそれがあるものとして感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由があるとき」(新型インフルエンザ特別措置法(以下、単に法という)第32条、施行令第6条)に、期間、区域、概要を定めて発出される。緊急事態宣言が出されたときに、各種の要請・指示を行うのは、当該地域が属する都道府県の知事である。

さて、まず「ロックダウン」であるが、このことに関連して法が定めているのは、以下の二つである。一つは、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅等から外出しないこと」の要請である(第45条第1項)。もう一つは、「学校、福祉施設(通所または短期間の入所により利用されるものに限る)、興行場、政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者、または当該施設を使用して催し物を開催する者(施設管理者等)」に対して、利用停止要請を行うこと、および要請に従わない場合の停止指示である(法第45条第2項、3項)。

つまり可能になるのは、外出自粛要請と、施設・催し物の閉鎖要請・指示だけであり、海外でみられるような、道路の封鎖や鉄道・バスの運行中止、強制的な自宅待機命令などを出すことはできない。電車の運行中止などを要請ベースで行うことも考えられるが、後述するように生活物資や、社会的に必要な機能維持のため出勤する人の輸送のためにも、電車等を止めるということは考えにくい。

施設の閉鎖要請・指示が可能な範囲について、具体的には、上記で出てきた施設に加え、「劇場・映画館、百貨店等の物販店舗、ホテル・旅館(集会の用に供される部分に限る)、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール」等(施行令第11条)を対象としている。ただし、これら劇場や百貨店などは床面積1000m2を超えるものに対象が限定されている1。

――――――――――
1 厚生労働大臣が特に必要として、専門家の意見を聞いたうえで公示をした場合は1000m2以下のものも適用対象となりうる。小規模なスナックやカラオケの閉鎖要請には厚生労働大臣の公示が必要となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中