最新記事

新型コロナウイルス

「恐怖の未来が見えた」NYの医師「医療崩壊」前夜を記す日記

Inside NYC Emergency Rooms

2020年4月6日(月)20時15分

感染が疑われ病院に運ばれる患者は後を絶たない ANDREW KELLY-REUTERS

<新型コロナウイルスが猛威を振るうニューヨークの救急病棟。マスクと装備、増え続ける患者、その症状、情報交換......。現場で奮闘する医師2人がその実情と苦悩を率直につづった>

巨大都市を未知の殺人ウイルスが襲ったらどうなるか。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の患者・感染者が爆発的に増え、一般市民が隔離生活を強いられているニューヨークで、日々マニュアルなき対応を迫られている救急病棟の医師2人が、現場の実情と苦悩を率直につづってくれた。以下はその要旨である(なおプライバシー保護の観点から医師の本名は伏せ、仮名としている)。

■3月25日 ケリー・キーン医師

通用口のデスクで出勤簿に記入してからPPE(個人用防護具)を受け取った。今週用の標準的マスクN95が1枚、今日の分のサージカルマスクが1枚。どちらも足りないから配給制だ。N95は今週中に新たな入荷があるという。

救急病棟はCOVID対応の最前線だ。勤務に就いて2時間としないうちに、マスクのせいで鼻筋が痛くなる。防護用の眼鏡は重くて、ずり落ちてくる(今までずっと、私は眼鏡に縁のない生活を送ってきた)。

数えてはいないけれど、COVIDの患者が増えているのは分かる。今日診察した患者の半数近くは「出戻り」、つまり数日前にインフルエンザ様の症状で訪れたが入院せずに帰宅し、でも呼吸が苦しくなってきたので戻ってきた人たちだ。けっこう若くて、基礎疾患のない人もいる。

■3月26日 ローレン・セリーノ医師

今日は自分の忍耐力を試された。こんな状況でも常連さん(たいした病気じゃないのに毎日のように現れる患者たち)はやって来る。でも、今のここはウイルスだらけ。感染したらどうする? この人たちを、ここにいさせちゃいけない。毅然としなくちゃ。優しくしてはいられない。

どんどん視野が狭くなる感じだ。患者は毎日増えているのに「普通」の病態は減るばかり。虫垂炎の人はどこ? 脚の骨を折った人は? そんな患者でさえ、今は念のためにX線検査やCTスキャンで肺の状態を確かめる。誰もがCOVIDに見えてくる。ぐいぐい大波が寄せてきて、今にも砕け落ちそうだ。

■3月27日 セリーノ医師

今日は臨床から解放されたので後方支援に回った。PPEと同じくらいに科学的な指針が足りない。だから自分でリスクを分析し、自分の判断で必要なものを買い、試してみるしかない。先月分の給料は自分と、そしてチームの仲間が使う資材の調達費で消えてしまった。わずかな救いは、PPEを着けずに一日を過ごせたこと。快適だけど、やっぱり不安はある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下

ワールド

レバノン、停戦案修正を要求 イスラエルの即時撤退と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中