「恐怖の未来が見えた」NYの医師「医療崩壊」前夜を記す日記
Inside NYC Emergency Rooms
感染が疑われ病院に運ばれる患者は後を絶たない ANDREW KELLY-REUTERS
<新型コロナウイルスが猛威を振るうニューヨークの救急病棟。マスクと装備、増え続ける患者、その症状、情報交換......。現場で奮闘する医師2人がその実情と苦悩を率直につづった>
巨大都市を未知の殺人ウイルスが襲ったらどうなるか。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の患者・感染者が爆発的に増え、一般市民が隔離生活を強いられているニューヨークで、日々マニュアルなき対応を迫られている救急病棟の医師2人が、現場の実情と苦悩を率直につづってくれた。以下はその要旨である(なおプライバシー保護の観点から医師の本名は伏せ、仮名としている)。
■3月25日 ケリー・キーン医師
通用口のデスクで出勤簿に記入してからPPE(個人用防護具)を受け取った。今週用の標準的マスクN95が1枚、今日の分のサージカルマスクが1枚。どちらも足りないから配給制だ。N95は今週中に新たな入荷があるという。
救急病棟はCOVID対応の最前線だ。勤務に就いて2時間としないうちに、マスクのせいで鼻筋が痛くなる。防護用の眼鏡は重くて、ずり落ちてくる(今までずっと、私は眼鏡に縁のない生活を送ってきた)。
数えてはいないけれど、COVIDの患者が増えているのは分かる。今日診察した患者の半数近くは「出戻り」、つまり数日前にインフルエンザ様の症状で訪れたが入院せずに帰宅し、でも呼吸が苦しくなってきたので戻ってきた人たちだ。けっこう若くて、基礎疾患のない人もいる。
■3月26日 ローレン・セリーノ医師
今日は自分の忍耐力を試された。こんな状況でも常連さん(たいした病気じゃないのに毎日のように現れる患者たち)はやって来る。でも、今のここはウイルスだらけ。感染したらどうする? この人たちを、ここにいさせちゃいけない。毅然としなくちゃ。優しくしてはいられない。
どんどん視野が狭くなる感じだ。患者は毎日増えているのに「普通」の病態は減るばかり。虫垂炎の人はどこ? 脚の骨を折った人は? そんな患者でさえ、今は念のためにX線検査やCTスキャンで肺の状態を確かめる。誰もがCOVIDに見えてくる。ぐいぐい大波が寄せてきて、今にも砕け落ちそうだ。
■3月27日 セリーノ医師
今日は臨床から解放されたので後方支援に回った。PPEと同じくらいに科学的な指針が足りない。だから自分でリスクを分析し、自分の判断で必要なものを買い、試してみるしかない。先月分の給料は自分と、そしてチームの仲間が使う資材の調達費で消えてしまった。わずかな救いは、PPEを着けずに一日を過ごせたこと。快適だけど、やっぱり不安はある。