猫のコロナ感染率は15%――「人→猫」「猫→人」感染は?
3.データを示す図表
論文には二つの図表があるが、その中の一つである「ELISA(酵素結合免疫吸着法)による猫血清サンプルとSARS-CoV-2スパイクの組換え受容体結合ドメイン(RBD)」を以下に貼り付ける。
縦軸のAbsorbanceは一般的には「吸光度」という意味だが、このままでは分からない。これはどうやら、「ELISAの試験結果を評価する数値」で、この論文では「0.32以上を陽性とみなす」となっている。
したがって0.32の所に引いてある点線は陽性であるか否かを判断する基準値となるようだ。点「●」は、グループ内の個々のサンプルを表す。
緑色の「●」は「2019年3月から5月に武漢で採取された猫のサンプル」で、赤色の「●」は「2020年1月から3月に武漢で採取された猫のサンプル」である。
右上に書いてある「Sera」というのは「Serum(血清)」の複数形である。どういう時期の猫の血清を使ったかを示している。
あまり専門的な説明に入らず(実際、筆者にも専門用語の正確な意味は分からないので)、ざっくりした説明をすると、以下のようなことが読み取れる。
――昨年の3月から5月の時点における武漢の猫(緑の●)は感染していない。Absorbance値が点線以下なので、新型コロナウイルス感染に関して全て「陰性」だったということができる。
一方、今年2020年1月から3月の期間(コロナ肺炎発生後)における武漢の猫(赤の●)は15例が感染していて陽性だった。点線の上に来ている「赤の●」を数えて頂くと「15個」ある。陽性だ。
おまけに「3個」だけは特に感染強度が高い。これはコロナ感染者(3人)が自宅で飼っていたケースである。その他は感染者が餌を与えたケースや、コロナ患者が多い汚染環境で生きていた野良猫たちの感染度である。野良猫の感染は集団感染を示唆する。
結論的に、人間が感染しない限り、たとえもともと武漢の海鮮市場に新型コロナウイルスが野生動物を宿主として生息していても、猫は新型コロナウイルスに感染しないということが言える。猫に感染させるのは人間のコロナ感染者である。
論文では「猫から人への感染は今のところ確認されておらず、今後の研究を待つ」としている。
コロナ感染自宅待機者などへの警鐘
論文は「重要なことは、人と猫などのコンパニオンアニマルとの間に適切な距離を置くことと、これらの動物に対しても厳重な衛生管理と検疫対策を早急に実施することである」と警鐘を鳴らしている。
日本では軽症感染者や無症状感染者を自宅待機させるなどという非常に不適切な隔離方法を取っているが、これが如何に危険であるかは別の機会に述べるとして、少なくとも自宅待機の感染者は多い。
その中には愛猫家もいるだろう。猫を心の支えとして生きている人もいるかもしれない。
また「人間」とは「社会的距離」を保っていなければならないが動物なら大丈夫だと思って、猫やフェレットを新しく飼う人もいるにちがいない。孤独を癒す唯一の縁(よすが)を猫に求めていることだってあるだろう。
その時に、自分の愛する猫たちがコロナに感染しないように、ここでご紹介した論文が、何らかのお役に立つことを祈る。
(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所の論考から転載した。)
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。