最新記事

中国

習近平の武漢入りとWHOのパンデミック宣言

2020年3月12日(木)13時45分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

では如何なるデータを根拠に「安全だ」と判断したのかというと、それは、あの「絶対に政府にも党にも忖度しない」鍾南山がハイレベル専門家チームのトップを務めている「国家衛生健康委員会」が出した以下のデータである。

endo20200312123401.jpg

これは国家衛生健康委員会が3月10日に出した「湖北省と非湖北省の新規感染者数」に関するデータで、元のデータの色や文字が見えにくいため、筆者が見やすいように色と文字フォントを書き換えたものである。

赤が湖北省、青が湖北省以外で、横軸は日付(上部に表示)、縦軸は「新規患者数(新たな増加人数)」だ。

このグラフを見れば一目瞭然。3月2日以降に急激に減っている。3月10日は湖北省で13人、非湖北省(湖北省以外の中国全土)で18人の増加にまで減っている。

湖北省以外の方が多いのは、イタリアやイギリスなど、海外から北京や上海に戻ってきた者が運んできたウイルスであるケースが多く、中国ではむしろ、海外からの「再輸入」を防ぐことに必死だ。

あれだけ激増した湖北省は封鎖されていたので内部増殖であって、それも「74、41,36,13」と安定してdecay(減衰)しているので、習近平も安心して武漢入りできたわけだ。

3月6日付のコラム「今さら!水際、中国全土を対象――習近平国賓来日延期と抱き合わせ」で書いたように、安倍首相が中国全土を対象とすると言ったのは、3月5日のことだ。

湖北省だけでなく、もう一ヵ所、浙江省を対象に加えると決定したのは2月12日。

この時点なら、まだ広東省や河南省などが浙江省よりも感染者が多く、全国的に広がっていた。それが急激に激減した3月2日以降になってから、全中国を対象とすると言われても、効果がないことは歴然としている。

ならば、そんなにこのデータが信用できるのかと言えば、これに限っては信用していい。なぜなら、あの中国で、人民の命を守るためなら江沢民にも抵抗し、このたびは習近平にも果敢に直言した鍾南山が国家衛生健康委員会のハイレベル専門家チームのトップを務めているからだ。

さらに、習近平にとっては、万一にもウイルスに打ち勝つことができなければ、「一党支配体制が必ず崩壊する危機にある」ため、自分自身の政治生命がかかっている。どんなことがあっても、この「人民戦疫」には勝利しなければならないため、ニセの報告をした者には厳しい処罰を与える法律まで制定しているので、あらゆる意味から、このデータだけは信用できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中