サプライチェーン中国依存の危うさを世界は認識せよ
A MADE-IN-CHINA PANDEMIC
世界の製薬産業を支えているのは中国産の医薬品有効成分だ REUTERS
<世界的な感染拡大を招いた中国が医薬品の輸出を「感謝されるべき」という態度に――中国なくして回らない生産体制の危うさ>
新型コロナウイルス感染症は160カ国以上に拡大し、多くの人の健康と生命を奪い、社会を混乱させ、経済にダメージを与えている。
この事態を招いた主たる原因は、中国当局が初期に情報を隠蔽したことにある。ところが、いま中国当局は、自国が医薬品有効成分(API)などの輸出を制限しなかったことに世界が感謝すべきだと言わんばかりの態度を取っている。
湖北省武漢で最初に患者が見つかったとき、中国当局はすぐに国民に警戒を呼び掛けなかった。それどころか、警鐘を鳴らした医療関係者を処罰したり、一時身柄を拘束したりした。
意外な対応ではない。中国当局は2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が確認されたときも、1カ月以上情報を隠し続けた。その後、感染が拡大し、30を超す国と地域で8000人以上が感染した。
今回の新型コロナウイルス問題では、習近平(シー・チンピン)国家主席が強力な指導者というイメージを守りたいと強く望んでいるために、秘密主義にますます拍車が掛かっている。中国当局がもっと早く国民に警戒を呼び掛け、封じ込めのための措置を取っていれば、世界中でここまで多くの被害や混乱が生じることは避けられただろう。
ほかの国がこのような(本来は防げたはずの)危機の引き金を引いたのなら、世界中から総スカンを食っていただろう。強い経済力を持つ中国はそれほど激しい批判を受けずに済んでいるが、習体制は国内外での威信を取り戻すのに相当苦労しそうだ。いま中国のリーダーたちがAPIの輸出を制限しなかったことをしきりに自画自賛しているのは、国際的な批判を回避する狙いがあるのかもしれない。
このままでは医薬品不足に?
もし中国がAPIの対米輸出を禁止すれば、アメリカは医薬品の不足により「コロナウイルスであふれ返る」だろうと、国営の新華社通信は記事で主張している。その記事によれば、中国がそのような措置を取ったとしても、入国制限など、アメリカの「不親切な」措置に対する対抗措置として正当化されるという言い分だ。
中国は過去にも、言うことを聞かない国に制裁を加えるためにレアアースなどの戦略上重要な物資の輸出を止めたことがある。米商務省によれば、アメリカで販売されている抗生物質の97%が中国産だ。「もし中国が本気でアメリカを徹底的に痛めつけたいと思えば、抗生物質の輸出を差し止めるだけでいい」と、トランプ政権で国家経済会議の委員長を務めたゲーリー・コーンは昨年語っている。