最新記事

中国

中国の無症状感染者に対する扱い

2020年3月26日(木)14時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2月14日には国務院の記者会見で、行政組織である国家衛生健康委員会が「無症状感染者に関しては対外的に公表しないと決定した」と正式に公言した。

「公表しないという決定」が妥当であるか否かは別として、「公表しないという決定をした」という事実を、正確に認識しなければならないだろう。

この決定に関しては中国国内でも少なからぬ疑問と批判がネット上で見られた。

これはたとえば日本の専門家会議で決定を出しても「それはおかしいだろう」という声がメディアで上がるのと類似の性格の「声」である。

無症状感染者の割合

国によって無症状感染者の統計的扱いは異なるようだが、ネイチャーの論文によると、無症状(asymptomatic)感染者は全感染者数の30-60%を占めるようだ。したがって中国のこれまでの累積患者数が8万強であるなら、無症状感染者数が4万人強いたというのは、論理的範囲内であるように思われる。

ただ、中国以外のどの国も、中国ほどに「一に検査、二に検査!」と、「ともかく検査が何よりも優先される」という対策を実施しているわけではないので、無症状感染者の数は、他の国でも同じ程度に(場合によっては、もっと)多いのではないだろうか。

日本でも、もし「検査を優先する」という対策を実施していたとすれば、日本の無症状感染者の数はかなり多いかもしれない。街で元気に動き回っている若者の中には、全く無症状でもPCR検査をすれば実は陽性だったという者が相当数いるかもしれないのである。それは私たちのすぐ隣にいるかもしれず、無症状感染者をチェックできるか否かは、今後の感染拡大を予測する重要なファクターの一つになり、対策の取りようも違って来るはずだ。ただ日本では「医療機関や医療関係者の数に限りがあるので、PCR検査を積極的には行わない」と専門家会議で決めているので、日本人はおとなしく専門家の決定に従っているだけのことである。

中国はどのようにして無症状感染者を把握したのか

では、中国はいったいどのようにして無症状感染者を把握できたのかを考察してみよう。

それは「濃厚接触者」をほぼ確実に掌握していることに起因する。

中国では3月10日ごろまで、日夜24時間を通して、1時間おきくらいに上記の「1~3」の分類に従って報道していた。各直轄市・省・自治区別に報告が上がってくるので、実際上は2,3分に一回くらいの割合で報道され、そのデータを追いかけていると、一日中何もできないというほど頻繁にデータが更新されインパクトと恐怖を与えた。

もちろん退院者数や死者の数も時々刻々報道していたので、その緊迫度は巨大地震や津波が起きた時のような強烈な印象を与えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中