イタリア、新型コロナウイルスがもたらす最悪の医療危機 現場に「患者選別」の重圧
先週以来、イタリアは完全な自主隔離状態に入った。すべての学校、オフィス、サービスが閉鎖され、公式に認められた十分な理由がない限り、全国民が自宅に留まるよう命じられた。ウイルスの拡散に歯止めをかけるための措置であり、他の欧州諸国もこの路線に従いつつある。
イタリア当局は、イタリア南部で感染拡大が始まることに特に神経を尖らせている。北部に比べ、医療体制を支える財政基盤がはるかに弱いからだ。
私立病院は通常、医療費を負担できる患者のためのものとされている。だが政府は私立病院に対しても、COVID-19患者に無料で治療を提供するよう命じた。
ポリクリニコ・サン・ドナト病院は民間保有だが、公的なクライアントと提携する認可を受けており、麻酔医及びその他の専門家によるチームを感染が最も深刻な街に派遣した。医学部の4年生・5年生には、病院で支援を行うよう要請が行われた。緊急治療室とCOVID-19患者の病室での支援には、心臓専門医まで駆り出されている。
ICUの統括を担当しているグラセッリ氏によれば、ロンバルディア地域の手術室はほぼすべて集中治療室に転換されているという。病院スタッフは残業を重ねている。感染した同僚の穴を埋めている者もいる。患者を別の地域に転院させる動きもある。
グラセッリ氏は、ロンバルディア地域のICUでは通常患者2人に対して看護師1人の比率になっているが、現在では1人の看護師が患者4~5人を担当していると語る。「病院のシステムを完全に組み直している」
棺にも近づけない
軍医の経験のあるレスタ氏は、ロンバルディア州の状況は1999年の紛争さなかのコソボよりも悪いように感じられる、と言う。同氏はコソボで航空救援チームに従軍し、患者をアルバニアからイタリアに輸送していた。
レスタ氏によれば、コロナウイルスに感染した患者を彼の病院で受け入れるときは、スタッフが必ず患者の親族にメールを送り、彼らの大事な人が「家族同然に」治療を受けられると安心させるという。レスタ氏は、彼の病院では、午後1時に連絡を取る際に患者が親族の顔を見られるよう、ビデオ会議のシステムを活用しようと試みていると話している。
往々にして、死に瀕したCOVID-19患者が最後に会う人間は、必然的に親族ではなく医師になってしまう。ウイルス感染の恐れがあるため、親族が棺に近づくことさえできない場合もある。
マラ・ベルトリーニ(Mara Bertolini)さんにとって、ワイン史研究者の父カルロさんについて耳にした最後の情報は、遺体安置所のスタッフが別の家族に、カルロさんの遺体を預かっていることを告げたときだった。
治療を頑張ってくれた医師たちには何の恨みもない、と彼女は言う。
亡父の最後の辛い1週間について何よりも彼女を驚かせたのは、担当医師に会ったときに、その顔に浮かんでいた表情だったという。
「あれが心配の表情だったのか、それとも悲しみだったのか、何とも言えない」と彼女は言う。
「医師が私たちに言ったのは『家から出ないでください』、それだけだった」
(翻訳:エァクレーレン)
[ミラノ ロイター]
【関連記事】
・イタリアを感染拡大の「震源地」にした懲りない個人主義
・新型コロナ:中国「新規感染者数ゼロ」の怪
・日本が新型肺炎に強かった理由
2020年3月24日号(3月17日発売)は「観光業の呪い」特集。世界的な新型コロナ禍で浮き彫りになった、過度なインバウンド依存が地元にもたらすリスクとは? ほかに地下鉄サリン25年のルポ(森達也)、新型コロナ各国情勢など。