インドネシア首都ジャカルタは「非常事態」? 新型コロナウイルスめぐり在留邦人に緊張と混乱
実質的には「屋上屋を架す」お願い
20日にアニス・バスウェダン知事が発出した新たな対策の宣言は、
①娯楽施設(映画館、ボウリング場、カラオケ、クラブ、バー、ディスコ、マッサージ、スパ、サウナなど)の閉鎖
②公共交通機関の運行時間の短縮、1両の乗客数制限
③州内の各企業の事業活動の一時的停止と在宅ワークの推奨
などとなっている。しかしいずれもが「求める」「呼びかける」というもので、基本は「お願いベース」なのである。
ジャカルタ市内繁華街のカラオケやクラブなどは15日の外出自粛要請を受けて客足が遠のき、とっくに営業を中止していた店も多く、いまさらの「娯楽施設の閉鎖」には「屋上屋を架す」の感が否めないとの声も出ている。
家族一時帰国や人事異動の凍結
インドネシアではこれまでに日本を含む外国人の入国制限や国際線の運航停止などの措置で、日本人の入国、出国が通常よりも難しくなっている。
感染予防やそれに伴う日本との定期航空便の削減や休止などといった国外への移動制限の影響もあり、日本人駐在員の中には家族を急きょ日本に一時帰国させるケースも増えている。
その一方で、3月、4月の人事異動の時期にも関わらず後任者の赴任が難しいことから異動できずにジャカルタに留まるよう指示を受ける「人事異動の一時凍結」によって否応なしの残留となっているビジネスマンも多いという。
こうした在留日本人、日系企業ビジネスマンは、職場である事務所や工場での感染防止対策やインドネシア人の同僚、従業員の健康維持のために日本大使館からの情報やマスコミ報道からの情報を必死になって収集、日々対応策に当たっている。
在留日本人の受け取り方
そういう緊張した雰囲気にあるインドネシア。特に感染者数が20日の時点で450人中215人が集中している首都ジャカルタ周辺に在住する日本人には、「非常事態宣言」はある意味「ショッキングなニュース」として瞬く間に伝わった。
「非常事態宣言という表現に関してそこまで神経質にならなくてもいいのではないか」
「むしろそこまで事態は深刻だということを理解するうえでは非常事態という表現は適当だ」と、在留日本人の間でもさまざまな反応が起きている。
これまでのジョコ・ウィドド政権やジャカルタ州政府が取ってきた数々の感染拡大防止策がいずれも「緩い」対策であり、それがまた急増し続けている感染者数にも反映されているという「インドネシア流」を理解したうえで、「非常事態宣言」という言葉そのものにはあまり拘泥することなく、事態を冷静にみて、自分で判断することが求められる。
もちろんそれで感染拡大が効果的に阻止できるのであればそれにこしたことはないのであるが、「非常事態宣言」という表現が独り歩きすることで新たな混乱が発生することだけは避けなければならないだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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