最新記事

2020米大統領選

新型コロナ蔓延でアメリカ大統領選は「未知の領域」へ

Let’s Cancel the Campaign

2020年3月20日(金)10時00分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会・元シニアフェロー)

民主党側はどうか。現時点でバイデンとサンダース両陣営は、新型ウイルスが選挙戦に及ぼす影響について何もコメントを出していない。現職のトランプだけでなく、民主党の両候補にも護衛のシークレットサービスが付いているが、具体的なウイルス対策は発表されていない。

現実は厳しい。症状の出ていない感染者を集会から締め出すことは不可能だ。候補者と支持者の接触を実力で禁じても参加者間の感染リスクは減らせない。

文化的な抵抗も大きいだろう。アメリカの政治集会は巨大な会場で、ロックコンサートのような雰囲気で開くのが常だ。もしも大々的な全国ツアーや支持者との握手をやめて身体的な接触を避け、演説の動画をネットで配信するだけにしたら有権者の熱気は冷め、予測できない結果をもたらす可能性がある。

米政治が未知の領域に

オンラインの選挙運動に比重を移すという選択には一理ある。ネット広告やミニ動画には一定の効果があるだろう。しかし、ネットやテレビの広告に巨費を投じたマイケル・ブルームバーグは早々に撤退を強いられている。

それでも投票については、郵便投票に比重を移すことが可能だし、そうすべきだ。それが無理なら、せめて投票所で列に並ぶときは必ず1メートル以上の間隔を空けるようにするべきだろう。戸別訪問やショッピングモールなどで投票を呼び掛ける際も、同様な注意を払う必要がある。

これからは「未知の領域」だと、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長は言った。そのとおりだが、未知なのはウイルス対策だけではない。アメリカ政治の全プロセスがその領域に突入している。

この国の民主主義にとって最も神聖なプロセスである大統領選挙がサイバー攻撃で妨害され、偽情報がネットにあふれ、選挙集会を取材する記者には暴力が振るわれる。そこへ新型ウイルスが追い打ちをかける。予備選にも党の全国大会にもウイルスは襲い掛かる。11月3日の本選挙の投票も、どうなるか分からない。

何としてもイランの二の舞いは避けねばならない。感染が止まらない状況で、今までどおりの選挙は続けられない。政治家が盛大な集会や運動を続けている限り、国民に集会禁止や自宅待機、登校禁止を強いることはできない。今までとは違うやり方で有権者を動かし、一票を投じてもらう方法を一刻も早く考え出すべきだ。時間はない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年3月24日号掲載>

【参考記事】ついに復活、大本命バイデンの「内なる敵」は若者たち?
【参考記事】新型コロナ拡大に備える、アメリカ流「悲観論」の読み方

20200324issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月24日号(3月17日発売)は「観光業の呪い」特集。世界的な新型コロナ禍で浮き彫りになった、過度なインバウンド依存が地元にもたらすリスクとは? ほかに地下鉄サリン25年のルポ(森達也)、新型コロナ各国情勢など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中