新型コロナ蔓延でアメリカ大統領選は「未知の領域」へ
Let’s Cancel the Campaign
民主党側はどうか。現時点でバイデンとサンダース両陣営は、新型ウイルスが選挙戦に及ぼす影響について何もコメントを出していない。現職のトランプだけでなく、民主党の両候補にも護衛のシークレットサービスが付いているが、具体的なウイルス対策は発表されていない。
現実は厳しい。症状の出ていない感染者を集会から締め出すことは不可能だ。候補者と支持者の接触を実力で禁じても参加者間の感染リスクは減らせない。
文化的な抵抗も大きいだろう。アメリカの政治集会は巨大な会場で、ロックコンサートのような雰囲気で開くのが常だ。もしも大々的な全国ツアーや支持者との握手をやめて身体的な接触を避け、演説の動画をネットで配信するだけにしたら有権者の熱気は冷め、予測できない結果をもたらす可能性がある。
米政治が未知の領域に
オンラインの選挙運動に比重を移すという選択には一理ある。ネット広告やミニ動画には一定の効果があるだろう。しかし、ネットやテレビの広告に巨費を投じたマイケル・ブルームバーグは早々に撤退を強いられている。
それでも投票については、郵便投票に比重を移すことが可能だし、そうすべきだ。それが無理なら、せめて投票所で列に並ぶときは必ず1メートル以上の間隔を空けるようにするべきだろう。戸別訪問やショッピングモールなどで投票を呼び掛ける際も、同様な注意を払う必要がある。
これからは「未知の領域」だと、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長は言った。そのとおりだが、未知なのはウイルス対策だけではない。アメリカ政治の全プロセスがその領域に突入している。
この国の民主主義にとって最も神聖なプロセスである大統領選挙がサイバー攻撃で妨害され、偽情報がネットにあふれ、選挙集会を取材する記者には暴力が振るわれる。そこへ新型ウイルスが追い打ちをかける。予備選にも党の全国大会にもウイルスは襲い掛かる。11月3日の本選挙の投票も、どうなるか分からない。
何としてもイランの二の舞いは避けねばならない。感染が止まらない状況で、今までどおりの選挙は続けられない。政治家が盛大な集会や運動を続けている限り、国民に集会禁止や自宅待機、登校禁止を強いることはできない。今までとは違うやり方で有権者を動かし、一票を投じてもらう方法を一刻も早く考え出すべきだ。時間はない。
<本誌2020年3月24日号掲載>
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2020年3月24日号(3月17日発売)は「観光業の呪い」特集。世界的な新型コロナ禍で浮き彫りになった、過度なインバウンド依存が地元にもたらすリスクとは? ほかに地下鉄サリン25年のルポ(森達也)、新型コロナ各国情勢など。