最新記事

2020米大統領選

新型コロナ蔓延でアメリカ大統領選は「未知の領域」へ

Let’s Cancel the Campaign

2020年3月20日(金)10時00分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会・元シニアフェロー)

magw200319_Election2.jpg

候補者が遊説先で愛想を振りまき密に触れ合うのはアメリカ流だが(2016年のトランプ) CARLO ALLEGRI-REUTERS

平穏無事に勝者が決まったとしても、民主党としては支持者の士気を高めるために派手なお祭り騒ぎをやり、テレビで全米に中継してもらいたい。だが、そもそも党大会を開けなかったら?

考えたくもない事態だが、幸か不幸か、教訓とすべき前例はある。1918年11月5日、第1次大戦の末期にアメリカで中間選挙が実施された。ちょうどスペイン風邪が猛威を振るい、全米の主な大都市で大量の死者が出ている時期だった。

候補者は集会や遊説などの選挙運動を中止した(大統領選の年ではなかったため、全国党大会の中止が議論される状況ではなかった)。結果、投票率は40%で、当時としては異例の低さだった。しかし投票結果の正当性を疑問視する声は出なかった。

一方、感染症の蔓延リスクがあるなかで民主的な政治日程を通常どおりに進めると、選挙結果をゆがめる可能性があることを示す事例もある。

1976年、現職のジェラルド・フォード大統領は豚インフルエンザの蔓延が懸念されるなかで、続投を懸けて民主党候補のジミー・カーターと戦った。1918年のスペイン風邪並みに致命的な疫病になり得るという保健当局の見解を、当時の最も高名なウイルス学者でポリオワクチンの開発者であるジョナス・ソークとアルバート・セービンも支持していた。

そこで急きょワクチンが製造され、本選挙の1カ月前に予防接種が始まったが、一部で深刻な副作用が出て、接種は中止された。結局、このウイルスがアメリカに上陸することはなかったが、副作用の被害者たちはフォード政権の対応を激しく非難した。選挙のやり方を変えようという議論は出なかったが、それでも結果として現職に不利に働いたとは言えそうだ。

イランの惨状を教訓に

そして今回は、背筋の凍るような前例がイランにある。イランでは2月初旬に初めて症例が確認され、2月19日には2人の死亡が発表された。だが政府は2月11日のイラン革命記念日に大規模な式典を開き、2月21日には国会選挙の投票を予定どおり行った。多くの有権者が投票所に並んでいた頃、イラン国内では既に1万8000人以上が発症していたと推定される。

本稿執筆の時点で、イランでは国会議員の約10%が感染している。宗教指導層の間でも何人かが発症し、死亡者も出ている。イランの感染者数は中国とイタリアに次いで世界で3番目に多い。

革命記念日の式典を開いた時点では、まだイラン当局も新型コロナウイルスの脅威に気付いていなかったかもしれない。だが10日後の選挙の時点では、感染拡大のリスクを承知していたはずだ。

今のアメリカも承知している。ならば従来型の選挙運動をやめ、別なやり方を考えるべきだが、どうしたらいいか見当もつかない。だから今までどおり続けるしかない。現時点でトランプ陣営は、感染拡大が続いても選挙集会や全国党大会の予定に変更はないとしている。トランプの有力支持基盤であるキリスト教保守派の信者も平気で集会に出席している。「こんな事態は聖書で予言されていたし、自分たちは信仰で守られている」と固く信じればこそだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中