新型コロナウイルス・ワクチンに潜むリスク 開発焦れば逆効果も
製薬会社や医学研究に対する規制上の監督権は、各国の規制当局が握っている。そのうち最も強力な機関である米食品医薬品局(FDA)は、上記の会合でのコンセンサスを支持しており、臨床試験スケジュールを加速させることを邪魔しないと示唆している。
FDAのステファニー・カッコモ報道官は声明のなかで、「新型コロナウイルスなど公衆衛生上の緊急事態に対応する際は、規制を柔軟に運用し、あるワクチン・プラットホームに関連するすべてのデータを考慮するつもりだ」と語った。ワクチン増強に関する動物試験については、FDAは特にコメントしていない。
とはいえ、コロナウイルス・ワクチンの開発担当者は、ワクチンそのものが有毒でなく、ウィルスに対する免疫反応を支援する可能性が高いことを確認するために、通常の動物試験を行わなければならない。
「シアトル・リスク」
新型コロナウイルス・ワクチンの候補としては、米ジョンソン&ジョンソン、仏サノフィSAなどを含む研究所・製薬会社により、約20種類が開発中である。米国政府はコロナウィルスの治療・ワクチンのために30億ドル以上の予算を計上している。
臨床試験に最も近い段階にあるのは、国家予算で運営されている国立衛生研究所(NIH)と協力関係にあるバイオテクノロジー企業モデルナ社で、今月シアトルで45人を対象とする臨床試験を開始する計画を発表している。
NIHはロイターに対し、臨床試験と並行してワクチン増進の具体的なリスクに関する動物実験を進めていくと述べており、これによって、さらにワクチン投与の対象者を拡大することが安全かどうかが確認されるはずだとしている。モデルナにもコメントを求めたが回答は得られなかった。
NIHの一翼を担う国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の微生物・感染症部長を務めるエミリー・アーベルディング博士によれば、この計画はWHOにおけるコンセンサス及びFDAの規制要件を満たすものだという。NIHの報道官は、臨床試験には14ヶ月を要すると述べている。
メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のウイルス学者・ワクチン研究者であるグレゴリー・ポーランド博士は、こうしたアプローチに疑問を投げかける。「(ワクチン開発を急ぐのは)大切なことだが、科学者も一般市民も、これらの(ワクチンが)有効であるだけでなく、安全であると安心できるような方法で開発する必要がある」とポーランド博士はロイターに語った。
ホーテズ博士は、臨床試験が進められることに驚いたと言う。「モデルナ社のワクチンを投与された実験動物に免疫増強が見られたら大問題になる」と同博士は言う。
中国企業と提携して新型コロナウイルスのワクチン開発を進めている米国の免疫療法企業イノビオ・ファーマスーティカルズも、やはりワクチン増強に関する動物実験を待たずに、米国内の志願者30人を対象とした臨床試験を4月に開始したいと考えている。
イノビオのジョゼフ・キムCEOはロイターに対し、「社会が全体としてワクチン開発の加速を重視しており、臨床プロセスを遅らせたくない。できるだけ迅速にフェーズ1研究に移行しようという気持ちになっている」と語った。
イノビオでは、その後すぐに、新型コロナウィルスにより深刻な打撃を受けている中国・韓国においても人間を対象とした安全性試験を開始することを予定している。キムCEOによれば、年内にはワクチン増強の問題に対する結論が出るものと期待しているという。