新型コロナウイルス・ワクチンに潜むリスク 開発焦れば逆効果も
モデルナ/NIHによる臨床試験は、シアトルのカイザー・パーマネント・ワシントン医療研究所の患者を対象としている。だが、数週間前に決定された臨床試験実施場所の選択が問題を引き起こす結果になるかもしれない。
現在はフランスの国立保健医学研究所(INSERM)で働くキーニー博士によれば、WHOの会合に参加した科学者らは、治験志願者にとってのリスクを減らすため、製薬会社は初期の臨床試験の対象を少数の健康なグループに限定し、ウイルス感染が拡大していない場所で行うことを勧告しているという。こうすれば、ワクチンを投与された人々がウィルスに接触し、より深刻な反応を引き起こす可能性が低下するからだ。
だが、臨床試験の実施場所が選択された後、シアトル中心部は米国における新型コロナウィルス感染の中心地になってしまった。
それにもかかわらず、モデルナとNIHは先に進もうとしている。
「臨床試験の実施場所を変更する理由はないと考えている。変更しても、今後数週間のうちに、また新たな場所でコミュニティ感染が生じるかもしれない」とアーベルディング博士は言う。「参加者にとって、コミュニティ感染のリスクがあるとしても非常に小さい。臨床試験を進めるなかで管理可能だろう。参加者はきわめて慎重に観察されている」
過去の経験は生きるのか
他のワクチンやコロナウイルスに関する過去の取組みから得られた悲劇的な教訓も、やはりワクチン開発担当者に対して警鐘を鳴らしている。
最も有名な例は、1960年代、米国で行われたあるワクチンの臨床試験である。このワクチンは呼吸器合抱体ウイルス(RSV)対策としてNIHが開発し、ファイザーにライセンスされたものだが、幼児に投与すると肺炎を引き起こした。ワクチン投与を受けた乳児の圧倒的多数で重篤な症状が見られ、幼児2人が死亡した。もっと最近の例では、フィリピンで約80万人の児童が、サノフィが開発したデング熱ワクチンの投与を受けた。サノフィは投与後に初めて、ごく一部の個人でもっと重篤な症状が生じるリスクが増すことに気づいた。
ホーテズ博士による研究も含め、特にコロナウイルスに関してはこの種の反応が生じる可能性があることが示されている。だがワクチン増強リスクの試験には時間がかかる。人間と同じようにウイルスに反応するよう遺伝子操作を施したマウスを繁殖させる必要があるからだ。マウスその他の動物モデルに関する取組みは、今まさに、世界各国の複数の研究所で進行中である。
モデルナ、イノビオをはじめとするいくつかのワクチン開発企業は、こうしたプロセスの完了を待たず、12月に発見されたばかりのウイルスに関して、記録的な速さで人間の臨床試験を開始しようと計画している。
ジョンソン&ジョンソンは、ワクチン増強に関するテストに向けた動物モデルを開発していると述べ、10月には臨床試験に向けたワクチン候補を確保したいとしている。サノフィの広報担当者は、ワクチン増強のリスクを検証してから臨床試験を始めるつもりだと述べている。
ジョンソン&ジョンソンのワクチン開発部門であるジャンセン・ワクチンズのグローバル事業部を率いるヨハン・ファンホーフ博士は、「RSVの体験がどれほどダメージを残したかは皆が承知している」と話す。「動物にそのような兆候が出た場合には、無視するべきではない」
(翻訳:エァクレーレン)
[シカゴ ロイター]
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