最新記事

感染症

迷信深い今のアメリカは新型コロナウイルスに勝てない?

Can This America Handle a Public Health Crisis?

2020年3月11日(水)20時22分
ダーリア・リスウィック

ペンス副大統領およびコロナウイルス対策チームと共にホワイトハウスの記者会見に臨むトランプ大統領(2月26日)Carlos Barria-REUTERS

<今のアメリカは、子供の予防接種は毒だと言い、貧困は自己責任だとし、予防も医学的事実もあざ笑うような保守派に牛耳られている。公衆衛生軽視でCDCの予算を削減したトランプは、未だに事の重大性を十分にわかっていない>

アメリカは、新型コロナウイルスが来る前からすでに、重い病に感染している。それは新型コロナウイルスよりはるかに重く、感染力も強い病だ。

その病のせいで、アメリカは「新型コロナ」ショックのように大規模な公衆衛生上の危機に対応しきれない可能性がある。最先端だが高額な医療費や、数千万人の無保険者をかかえる医療保険制度、医療従事者の偏在だけでも手に余るが、その上この国は今、このウイルス危機が現実で、危険で、政争より重要だと認めることさえ万死に値する、と言われかねない心理的社会的な信念に罹患している。そのせいで、国民の大半が科学やファクト(事実)や報道を信じなくなっているのだ。

ガスマスクを着けて議場に表れ、悪ふざけが過ぎると批判を浴びたマット・ゲーツ下院議員(共和党)(その後彼は感染者と濃厚接触があったことが判明し、自宅で自主隔離を行うはめになった)もひどいが、ドナルド・トランプ大統領はもっとひどい。21人の感染者が出てカリフォルニアの沖合で「隔離」されていたクルーズ船「グランド・プリンセス」はそのまま沖合にいて欲しいと言った。戻ってきて「アメリカの感染者数」が増えるのは困る、と言ったのだ。

トランプ政権は以前から公衆衛生を軽視しており、国家安全保障会議(NSC)のパンデミック専門家のクビを切り、米疾病管理予防センター(CDC)の予算を削減した。またウイルスのリスクを軽く見せかける組織的な取り組みの一環として、検査キットの数と入手可能性について「たくさんある」と、完全なウソを全米に発表した。

弱者を救わない政治

すべてがひどい話だが、それでも、パンデミック(世界的な流行)を招きかねない最悪の状態に陥ったのは、すでにアメリカ社会が病んでいたからだ。その病とは、イデオロギーによる分断だ。

新型コロナウイルスの流行が拡大するか終息するかは、貧困層や移民、高齢者など近年のアメリカでひどい扱いを受けてきた人々に、アメリカが私利私欲なく手を差し伸べられるかどうかにかかっている。金持ちや強者しか相手にしないやり方では、公衆衛生の危機は回避できない。

それは結局、自分自身をに救うことにもつながるのだが、今のアメリカにそんなことができるとは思えない。

世論調査によると、コロナウイルスを差し迫った脅威と信じる可能性は、共和党員より民主党員のほうがも2対1の割合で高く、民主党員は感染拡大を抑制する予防措置を取ろうとする可能性が高い。

それは民主党員が共和党員よりも「善良な人間」だからではない。保守派メディアがウイルスのリスクを過小評価し、予防や封じ込めに金を使うことはリベラル派が垂れ流すフェイクニュースに屈することを意味する、というデマで貴重な時間と国民の信頼を浪費してきたせいだ。

人々がパンデミックの危機に目覚め、関心をもつことが、裕福な人間のためだけの医療制度の欠陥を露呈することであってトランプにとって政治的にマイナスであるならば、感染のリスクを否定し最小化するしかない、という理屈になる。どんな代償を払っても。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ワールド

再送-ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 買春疑惑で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中