最新記事

感染症

迷信深い今のアメリカは新型コロナウイルスに勝てない?

Can This America Handle a Public Health Crisis?

2020年3月11日(水)20時22分
ダーリア・リスウィック

数週間後には、新型コロナウイルスがもたらす生命と経済の犠牲が隠しようもなく明らかになるはずだ。それでもまだ、アメリカ社会がウイルスの真の脅威に目覚めたとは思えない。唯一の例外は、保守系政治評論家タッカー・カールソンがウイルスを深刻な脅威と認めたことぐらいだ。

人々が危機に気づくまでは、ウイルスの代わりに、様々な予防策をヒステリーや過剰反応と嘲ることが流行りそうだ。政治家やメディアは生死にかかわる問題ですら、相手方の言うことはウソばかりだという主張を繰り返し、アメリカ人は二極化した議論にますますうんざりし、政治や報道を信じなくなる。

重要なのは、感染拡大と致死率の両方を軽減する方法を知り、それが成功するにせよ失敗するにせよ、すぐに始める必要があるということだが、今のアメリカではそれが額面通りに受け入れられない。

疫学者はみな、アメリカ人が現時点で絶対にやってはならないことは、マスクを買い占め、自分を最優先することだと言っているが、それ以外にできることがあるとは思えない。

パニックのときに利他主義を貫くことは、自分の利益だけなく共同体全体の利益を高めることになる。家に留まり、高齢者や病人の世話をすること、両親が仕事に行く子供の世話をするシステムを作るといった行動は、誰にとっても有益だ。

アメリカを覆う「疑いの感染症」

だがアメリカではここ数年、予防接種は毒で、貧困は自己責任だから罰を与えるべきで、すべての政府は自らの犠牲の下に他人を助けるよう不正に操作されている、と言われてきたのだ。

そうした「疑いの感染症」は、新型コロナウイルの影響を増幅する。政治の名のもとに重要な医学上の真実を抑え込もうとする社会条件や心理条件が、今のアメリカにはある。私たちは、周囲の人間に対して不信を抱きやすくなっている。スーパーマーケットでトイレットペーパーの最後の1袋をひったくろうとする人であれ、他人をウイルスにさらすのもおかまいなしに歩きまわる人であれ、私たちはトランプ政権の3年間、国の半分は自分を憎んでいるという考え方に磨きをかけてきた。いまさら方向転換し、他人のニーズに気を配れるようになるとは思えない。

私たちが科学とファクトに対する信頼を取り戻さないかぎり、この健康危機はますます悪化していくだろう。今回の件は、アメリカで本当に利他主義と思いやりが回復不可能なまでに死に絶えてしまったのかどうかを確かめる、奇妙な自然実験になるだろう。そしてこれまでのところ、連邦政府も、そしてそれを支持するために存在する右派メディアも、こうした否定的側面を十分に認識していないように見える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中