最新記事

中国外交

中国、新型コロナウイルス感染鈍化でイメージ転換戦略 支援の外交攻勢

2020年3月11日(水)09時24分

パンダ外交を踏襲

習近平国家主席の下で、国際社会で自己主張を強めてきた中国にとって、新型ウイルス問題の初動の遅れは、習指導部の信頼失墜をもたらしかねない事態だった。ところが、中国国内よりも国外の感染者数がずっと急速に増加している状況となったことで、中国の発するメッセージも内容が変わってきた。

新型ウイルスに関し、米国がパニックを広めていると中国は繰り返し非難するだけでなく、これを人類が直面する課題と位置づけ、イランやイタリア、韓国といった感染の被害が大きい国への援助を申し出ている。

例えば中国はイランに医療チームを派遣するとともに、25万枚のマスクと5000個の検査キットを贈った。それが入った箱には、中世ペルシャの詩人・サアディーが人類の一体性を吟じた一節「アダムの子らは互いに手足のごとく、創造の起源を共有している」が記されていた。

一方、王毅外相は、習近平氏が打ち出した現代版シルクロード経済圏「一帯一路」を引き合いに、新型ウイルス問題は「医療のシルクロード」が必要なことも証明されたと強調している。

中国の政府系研究機関・「グローバル化シンクタンク」(中国与全球化智庫)所長で、国務院のアドバイザーを務めるWang Huiyao氏は「中国は有名な『パンダ外交』と同様に、世界に対して善意と友好の姿勢を見せようとしている」と説明し、この医療支援外交は、特に一帯一路への反発に起因して国際社会に広がった過去数年間のマイナスのイメージの改善も目指していると述べた。

上海市は、韓国の感染の中心地、大邱市に50万枚のマスクを届け、浙江省はイタリアのトリノ市に2600個の防護ゴーグルを寄贈した。

オーストラリアのローウィ-・インスティテュートのナターシャ・カッサム研究員は、他国の政治指導層が新型ウイルス問題で苦戦していることが中国にチャンスを与えていると指摘。先進国だとみなされている諸国を今や、中国が助けることができるという効果的な宣伝に役立っている、との見方を示した。

(Keith Zhai記者、Huizhong Wu記者)

[シンガポール/北京 6日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・WHO「新型コロナウイルス、パンデミックの脅威に現実味 なお制御可能」
・スペイン、新型コロナウイルス感染者999人に急増 政府が近く支援策発表へ
・韓国、8日の新型コロナウイルス感染は過去10日で最低に 文在寅「安定局面に入る可能性」


20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症 vs 人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コマツ、今吉専務が社長就任へ 小川社長は会長に

ビジネス

第一三共の4ー12月期、主力品好調で27%営業増益

ワールド

米軍機による移民送還、1人当たりはファーストクラス

ワールド

再送-FBI長官候補、「政治的報復」から職員守ると
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中