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新型コロナウイルス「アジア人差別報道を許すな」米ジャーナリスト協会が警告
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<横浜中華街だけでなく、世界各地のチャイナタウンで客足が激減。「マスク姿のアジア人」に対する差別行動がいくつも報告されるなか、アジア系アメリカ人ジャーナリスト協会が出した声明に学ぶこと>
「中国人はゴミだ!細菌だ!」などと差別的な言葉が書かれた手紙が3月3日に横浜中華街の老舗広東料理店「海員閣」に届いたと、同店のオーナーがツイッターに投稿した。これに対して海員閣には励ましの声が多く寄せられているが、新型コロナウイルスの脅威が広がるなか、外国人嫌い(xenophobia)と人種差別(racism)は世界各地で起きている。
こうした状況を鑑み、全米最大のチャイナタウン(中華街)がある米サンフランシスコに拠点を置く「アジア系アメリカ人ジャーナリスト協会(AAJA)」は先月、新型コロナウイルスの報道に際しアジア人とアジア系アメリカ人を「正確」かつ「公正」に描くよう、注意を呼び掛ける声明を出した。
その中でAAJAは、ニュースや解説報道に見受けられる懸念として以下のポイントを挙げた。
■正確な文脈を提示することなく、マスク姿のイメージを使用すること
新型コロナウイルスの大流行が起きる何年も前から、フェイスマスクは東アジア諸国で一般的に使用されており、その用途には汚染物質の吸引予防も含まれる。この慣習はアメリカ国内のアジア系移民にも持ち込まれ、現在はウイルス流行の結果としてより一般に普及している。AAJAは、報道機関がフェイスマスクをつけた人のイメージを使用する際には、マスクのさまざまな用途を鑑みて、きちんとその文脈まで提供することを求める。
■チャイナタウン(中華街)を一般化したイメージを使用すること
特定のニュースに直接的にかかわる特定のチャイナタウンのイメージのみを使用することとし、ウイルスを想起させるものとしては使用しないこと。適切な使い方は、例えば感染への恐怖からチャイナタウンの経済が立ち行かなくなっている、というニュースや、ある特定のチャイナタウンから発生した可能性のあるケース、といったニュースについて。AAJAは、チャイナタウンのイメージを包括的に使用することでステレオタイプを強化したり、「異質なもの」という認識を生まないように警告する。
■「武漢ウイルス」という言葉を使用すること
WHO(世界保健機関)は2015年にガイドラインを出し、病名をつける際に地名を使用しないようにと警告した。その地に住む人々に汚名を着せることになりかねないからだ。The Associated Pressの表記ルールによれば、コロナウイルスとは、通常の風邪からSARSまでさまざまに発症させるウイルスの総称だ。COVID-19というのが、武漢で生じたウイルスに起因する病気である。
世界では、各国のチャイナタウンで客足が激減しているとの報道が相次いでいる。また、差別的な発言やタクシーの乗車拒否、電車の中での差別行動などは、中国人のみならず見た目が「アジア系」の人々にも広がっているという。
AAJAの呼び掛けは報道機関に向けたものではあるが、透けて見えるのは、中国人だけでなく日系人を含め、世界各地でアジア系の人々が偏見にさらされているという危機意識だ。
日本国内でも、特定の人々が不十分な情報を元に差別され得る、もしくは差別し得るという危機意識を共有することが必要だろう。ひとりひとりが意識すれば、差別というウイルスをまき散らすことなく、封じ込めることができるはずだ。
2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。