最新記事

新型コロナウイルス

「アジア人差別報道を許すな」米ジャーナリスト協会が警告

2020年3月5日(木)18時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Motortion-iStock

<横浜中華街だけでなく、世界各地のチャイナタウンで客足が激減。「マスク姿のアジア人」に対する差別行動がいくつも報告されるなか、アジア系アメリカ人ジャーナリスト協会が出した声明に学ぶこと>

「中国人はゴミだ!細菌だ!」などと差別的な言葉が書かれた手紙が3月3日に横浜中華街の老舗広東料理店「海員閣」に届いたと、同店のオーナーがツイッターに投稿した。これに対して海員閣には励ましの声が多く寄せられているが、新型コロナウイルスの脅威が広がるなか、外国人嫌い(xenophobia)と人種差別(racism)は世界各地で起きている。

こうした状況を鑑み、全米最大のチャイナタウン(中華街)がある米サンフランシスコに拠点を置く「アジア系アメリカ人ジャーナリスト協会(AAJA)」は先月、新型コロナウイルスの報道に際しアジア人とアジア系アメリカ人を「正確」かつ「公正」に描くよう、注意を呼び掛ける声明を出した。

その中でAAJAは、ニュースや解説報道に見受けられる懸念として以下のポイントを挙げた。


■正確な文脈を提示することなく、マスク姿のイメージを使用すること

新型コロナウイルスの大流行が起きる何年も前から、フェイスマスクは東アジア諸国で一般的に使用されており、その用途には汚染物質の吸引予防も含まれる。この慣習はアメリカ国内のアジア系移民にも持ち込まれ、現在はウイルス流行の結果としてより一般に普及している。AAJAは、報道機関がフェイスマスクをつけた人のイメージを使用する際には、マスクのさまざまな用途を鑑みて、きちんとその文脈まで提供することを求める。

■チャイナタウン(中華街)を一般化したイメージを使用すること

特定のニュースに直接的にかかわる特定のチャイナタウンのイメージのみを使用することとし、ウイルスを想起させるものとしては使用しないこと。適切な使い方は、例えば感染への恐怖からチャイナタウンの経済が立ち行かなくなっている、というニュースや、ある特定のチャイナタウンから発生した可能性のあるケース、といったニュースについて。AAJAは、チャイナタウンのイメージを包括的に使用することでステレオタイプを強化したり、「異質なもの」という認識を生まないように警告する。

■「武漢ウイルス」という言葉を使用すること

WHO(世界保健機関)は2015年にガイドラインを出し、病名をつける際に地名を使用しないようにと警告した。その地に住む人々に汚名を着せることになりかねないからだ。The Associated Pressの表記ルールによれば、コロナウイルスとは、通常の風邪からSARSまでさまざまに発症させるウイルスの総称だ。COVID-19というのが、武漢で生じたウイルスに起因する病気である。

世界では、各国のチャイナタウンで客足が激減しているとの報道が相次いでいる。また、差別的な発言やタクシーの乗車拒否、電車の中での差別行動などは、中国人のみならず見た目が「アジア系」の人々にも広がっているという。

AAJAの呼び掛けは報道機関に向けたものではあるが、透けて見えるのは、中国人だけでなく日系人を含め、世界各地でアジア系の人々が偏見にさらされているという危機意識だ。

日本国内でも、特定の人々が不十分な情報を元に差別され得る、もしくは差別し得るという危機意識を共有することが必要だろう。ひとりひとりが意識すれば、差別というウイルスをまき散らすことなく、封じ込めることができるはずだ。

20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、米国と通商巡り「大きな進展」 米副大統領が

ワールド

情報BOX:ローマ教皇死去、各国首脳の反応

ワールド

プーチン氏側近「米ロの信頼回復必要」、北極圏協力再

ワールド

トランプ氏、国防長官に「全幅の信頼」と報道官 親族
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ページを隠す「金箔の装飾」の意外な意味とは?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 7
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中