感染力でみる新型コロナの脅威──ワクチンができるまで「集団免疫」の予防策はとれない
感染症の種類でいえば、はしかはこの値が16~21と非常に高く、コロナウイルスよりもはるかに感染しやすいことがわかる。これは、コロナウイルスが主に咳やくしゃみなどによる飛沫感染(飛距離は2メートル以内)や、ドアノブなどに触れてうつる接触感染で拡大するのに対して、はしかはウイルスの粒子が小さく、長時間空気中に浮遊して、広範囲に感染が拡大する(空気感染)ためとみられている。ただし、感染症関連の学会は、今回の新型コロナウイルスは、会話で生じる唾などがウイルスを含んで、閉鎖空間でごく短時間空気中に浮遊し、他者に感染させる可能性がある、と注意を促している。
総合的な感染力でみたときの新型コロナウイルスの脅威
一般に、感染症は免疫をもっている人はかからない。そこで、日本では、さまざまな感染症に対するワクチンの予防接種が行われている。その結果、現在、ワクチンがある感染症に対しては、9割を超える人が免疫をもつようになっている。
ただし、インフルエンザの場合は、流行しているウイルスの株とワクチンの株が違うと、予防接種を受けていても感染拡大を防ぎきれないこともあるとされている。
この「免疫を持つ人が多ければ多いほど、感染症が流行しにくくなる」という考え方にもとづいた感染拡大の予防策は、「集団免疫」といわれる。感染症の拡大防止のための、重要な予防策となる。
基本再生産数で表される素の感染力でみれば、はしかやおたふくかぜのほうが断然高い。しかし、ワクチン効果を含めた総合的な感染力でみると、効果が限定的なインフルエンザや、ワクチンがないSARS、MERSの脅威が高まってくる。
そして残念ながら、いま流行している新型コロナウイルスに対しても、まだワクチンはない。今後、ワクチンを開発して臨床試験を経て実用化するまでには、相当な時間がかかる見込みとされている。
そこで、いますぐにすべき予防策として、帰宅時、食事前、トイレ後の石鹸での手洗いや、電車内での咳エチケットの励行など、一人ひとりが日常生活のなかで感染症対策を行うことが重要となる。
新型コロナウイルスは流行のピークが見えず、今後も新たな感染拡大の状況が明らかになることが予想される。2月27日、政府は、全国の小中学校、高等学校、特別支援学校について、3月2日から春休みまで臨時休校を要請した。今回の感染拡大防止の動きは、史上に例をみない展開となっている。
一般の市民として、大切なことは、メディアが報じる数値にあまり踊らされることなく、一人ひとりが、いますぐにすべき予防策を粛々ととっていくことだと思われるが、いかがだろうか。
[執筆者]
篠原 拓也 (しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主席研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任