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中国人全面入国規制が決断できない安倍政権の「国家統治能力」

2020年3月2日(月)11時45分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これまでの累計患者数は10人で、最初の7人が武漢からの旅客、直近の3人がマカオ人だ。こんなことが可能になったのも、2月5日から中国大陸からの入境も中国大陸への渡航も禁止しているからである。

マカオを管轄するのは中国政府(北京政府)の全人代(全国人民代表大会)常務委員会である。この委員会が、マカオがこのような措置を取ることを許可しない限り、マカオ政府の一存では動けない。ということは北京政府がマカオ政府のこのような、中国大陸居住者の入境を禁止することを認めたということになる。

日本は中国に利用されているだけ

この事実を深く考えてみよう。

2月20日付のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>で、「中国政府はアメリカの対応を『非常に非友好的である』として強く非難する一方、日本は『非常に友好的な国』として絶賛の嵐を送っている」と書いた。今般も安倍首相と楊潔チとの会見で安倍首相が言った言葉を「習近平礼賛の代表」として中国では大きく扱っている。

しかし、自国が管轄するマカオに関しては、中国大陸からの渡航者を入境させないことを肯定し歓迎するわけだ。これはマカオを自国とみなして、自国の利益を優先しているからだ。同じ特別行政区でも香港市民が反中的であるのに対して、マカオは非常に親中的で「一国二制度」の模範生である。そのマカオがカジノを中心とした観光地としての収入源を失うことを警戒し、習近平はマカオを守ろうとしている。

ということは逆に言えば、中国人入国の全面規制をしない日本は、習近平にとっては「これ以上においしい国はない」ということになる。日本に患者が増えようが知ったことではないのだ。中国を拒絶しない「先進国(G7)」の一国があれば、その存在を中国に都合が良いように宣伝して最大限に利用できる。

2月25日から中国山東省威海市などは日本と韓国からの渡航者を規制し14日間隔離していることを中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版「環球網」が報じているが、もちろん中国政府はそれを非難したりせず、むしろ奨励している。日本は世界から警戒される国になってしまったが、習近平は、「それは歓迎」なのである。

そんな日本は二階幹事長などが音頭を取ることにより中国にマスクや防護服などを大量に寄付し、中国人ネットユーザーから「そんなことばかりしてたら日本で足りなくなってしまうんじゃないか」と心配されているほどだ。そして実際、日本人はマスクが買えなくて困っている。

これが日本だ。安倍政権の実態なのである。

私自身はこれまで安倍首相を心情的に応援してきたつもりだが、習近平を国賓として訪日させることを決定した安倍首相を応援する気にはなれなくなってしまった。ましてやそのことを重視して習近平に忖度し、日本国民にここまでの犠牲を強いている安倍政権を応援する日本国民は、きっと多くはないだろう。残念でならない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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