新型コロナウイルス感染拡大にも慌てないフランスの手腕
新型コロナウイルスへの感染をおそれる職員たちの勤務拒否で休館したルーブル美術館と列に並んだ観光客(3月1日) Gonzalo Fuentes-REUTERS
<感染症対策が進んだフランスでは国民も落ち着いている、と筆者。そのフランスから見ると、「検査拒否」も報じられる日本は五輪開催にふさわしくない国と判断されかねないという>
3月7日13時55分発表で716人だったフランスの新型コロナウイルス感染者が、4時間後の19時40分発表では949人になった。この記事がアップされるころには1000人を超えているだろう。国会議員も2人感染し、1人は集中治療室に入っている。もちろんニュースは新型コロナウイルスで溢れている。
だが、パリは、ふだんより人通りが減って、落ち着いている。公共交通機関の度重なるストで通りが車と自転車と電動キックボードで溢れていたのが嘘のようだ。マスクをした人も少ない。フランスでは、たんなる予防のためには意味がないとされている。
もちろん、感染の疑いのある人や濃厚接触の可能性の高い人にはマスクは不可欠である。ルーブル美術館が3月1日、2日に臨時休館に追い込まれたのは、感染をおそれる職員たちが危険な業務につくことを拒否する「撤退権」を行使したためだが、要求の中には職員へのマスクの配布もあった(4日から再開)。
学校全員を無料で検査
落ち着いているのは、医療体制が整っているからでもある。感染者数が増えたのは、きちんと検査が行われていることの裏返しだ。学校などで感染者が出ると、生徒や教員など関係者全員検査が行われる。職場の労働医や町医者が感染の疑いを持つと、すぐ検査を受けさせる。もちろん無料である。
付随する措置についても省庁横断的に対策が取られている。新型肺炎情報そのものは保健連帯省が発表するが、交通、教育、労働、財務など分野ごとにそれぞれの担当大臣が記者会見、説明する。
経済的社会的影響も早くから考慮されていた。たとえば1月31日には、従来の休職疾病保障では病気でない人の隔離や待機には手当が支払われないという不都合を修正し、感染していなくても最長20日間手当を受け取れるとする政令を発した(20日を超えて当人が病気の時には、通常の疾病手当)。
対策のレールがしっかりと敷かれ、政治家、官僚、科学者......がそれぞれの持ち場で役目を果たして着実に前に進んでいるのがわかる。
実は、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2003年、ジャック・シラク大統領の下で「予防原則」が憲法に加えられた。たとえ科学的に確固としたエビデンスがない場合でも予防を第一にする、という考え方で、もともとは環境問題が念頭にあったのだが、翌年までには「伝染病の蔓延など特定の衛生緊急事態および危機に対応する『PlanBlanc(白プラン)』」が法制化された。テロ事件や大事故、伝染病対策などを対象とするもので、必要に応じて何度も計画が立てられ改良されている。