サッカー次世代の星は19歳「モンスター級」のハーランド
The Blond Beast of the Bundesliga
ハーランド自身は、ドルトムントのほうに魅力を感じたと語っている。それもそのはず、ドルトムントは欧州サッカーにおける最高の「若手養成所」として知られるクラブだ。ドイツ人やベルギー人の優秀なコーチの指導を受けながら、イングランドやモロッコ、ドイツ出身の若手有望株と一緒にプレーができる。ここから名門クラブに羽ばたいた「卒業生」には、19年に54ゴールを挙げて欧州の「年間得点王」となったロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)らがいる。
ハーランドがドルトムントを移籍先に選んだということは、まだ自分が完成形ではないことを承知している証拠でもある。欧州サッカー界ではなかなかお目にかかれない謙虚さだ。
ハーランドはボールを追うとき、背中を丸めて頭と膝を前に突き出した体勢で走る。全速力で走りながら体の向きを変えてシュートするのだが、長い腕を振り回す姿はあたかも上半身と下半身が全く別の作業をしようとしているかのように見える。
調子の悪いロボットみたいにふらふらして見えるが、バランス能力は抜群。その場の状況に瞬時に反応する。
技術の幅を広げるために
そんな体の動きが、文句の付けようのない成績を生み出している。欧州サッカーの得点王レースの上位につけ、ブンデスリーガでは向かうところ敵なし。たった59分間プレーしただけで1月の月間MVPに輝いた。
彼は本能的に面白いゴールも繰り出す。体の向きを変えながら、後頭部でヘディングシュートを決めたこともある。
大柄な体を生かしてディフェンダーの行く手を遮るときも、印象的なのは反応の速さだ。勘がいい証拠だろう。相手は危険を察知したときには、もう身動きが取れなくなっている。次のプレーに移る前に、ハーランドが猛スピードでチャージを掛けてくるからだ。
それにドルトムントでは、必要なところにパスを出してくれるチームメイトたちがいる。例えばイングランド出身のアシストの名手、ジェイドン・サンチョ(19)だ。
確かにハーランドは若い頃のメッシやロナウドに比べると、あまり器用とは言えない。現代サッカーにおける攻撃的な選手の理想像は、ドリブルやパスでディフェンダーをかわし、ゴールもできるタイプだ。その点で言えば、サンチョのほうが完成度は高い。
ハーランドはまだ19歳。オールラウンドプレーヤーになるために技術を磨く時間はたっぷりある。体の大きさを生かしてボールを支配し、仲間のためにチャンスをつくったり、長い足で敵のディフェンダーに圧力をかけたりする技術を学ぶこともできる。それがかなわなければ、とんでもない高率でシュートを決め続けて、器用なライバルたちと渡り合うしかない。
とはいえ、ブロンドの怪物の快進撃はしばらく続くだろう。ハーランドのプレーを一度見れば、誰でもそう思う。
©2019 The Slate Group
<本誌2020年3月10日号掲載>
2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。