最新記事

新型コロナウイルス

「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍、新型コロナで180人死亡の衝撃

2020年3月11日(水)11時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

2カ月で180人が病死したという報告を受けて北朝鮮軍は上を下への大騒ぎとなった KCNA-REUTERS

<北朝鮮当局は、新型コロナウイルスの自国での感染者発生を一向に認めようとしないが......>

北朝鮮では、新型コロナウイルスによる肺炎と思われる症状で23人が死亡したとの情報があるが、当局は自国での感染者発生を一向に認めようとしない。

<参考記事:「あと15日しかもたない」金正恩、新型肺炎で体制崩壊の危機

そんな中、衝撃的な情報が伝えられた。新型コロナウイルスにより朝鮮人民軍(北朝鮮軍)で兵士180人が死亡したというのだ。北朝鮮の軍内部では物資の横流しや虐待が横行し、栄養失調の兵士も少なくない。免疫力も低下していると見られる。

<参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

北朝鮮軍の内部情報筋が伝えたところによると、軍医局は3日、1~2月に180人が死亡し、3700人を隔離しているとの情報を最高司令部に報告した。死者は、中国と国境を接する平安北道(ピョンアンブクト)、慈江道(チャガンド)、両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に駐屯する国境警備隊に集中している。

軍医局は各部隊に対して「肺炎、結核、喘息、風邪の患者のうち、高熱で死亡したり治療を受けている者の数を一人残らず把握して報告せよ」との指示を下していた。

2カ月で180人が病死したという報告を受けて軍は上を下への大騒ぎとなった。

軍当局はまず、「遺体を徹底的に消毒せよ」との指示を下した。今まで保健当局は、新型コロナウイルスで死亡したと思われる人の遺体を火葬するよう指示を下していたが、それとは異なる内容だ。

これについて情報筋は「あまりに死者の数が多すぎて、隠したい情報が漏れるかもしれないと判断したもの」だと述べた。今まで軍病院では、遺体を火葬したことがなく、急に多くの遺体を火葬すれば「軍で何かが起きた」と気づかれる可能性があると考えたようだ。

また、「隔離患者の入院したところは毎日消毒せよ」との指示も下した。軍病院はメタノールを噴霧して消毒を行っている。

さらに追跡予防治療の重要性も強調し、「既往歴のある者や免疫力が落ちている者は集中管理せよ」との指示を下した。

続けて、今後の死者数を戦闘力総和に反映するとの方針を示した。これは、死者を多く出した部隊の責任者には責任を取らせるという意味合いがある。

各部隊では大慌てで対策に乗り出した。まずは食事だ。補給を担当する後方総局は、規定通りに兵士1人あたり800グラムの食糧を供給せよとの原則を強調し、1日1回しか出ていなかったおからを3回出すという規定を定めた。

しかし、国際社会の制裁に加え、度重なる自然災害で農業生産はひどい有様で、農場では食糧を確保しようとする軍の担当者と、出すまいとする農民の間でトラブルが発生するなどの状況だ。末端の兵士にまで充分な食糧を行き渡らせようとすると、今度は民間人の間で食糧不足が発生しかねない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米内国歳入庁も約6000人削減、郵政公社は商務省に

ワールド

中国、G20会合でトランプ氏への支持表明 ウクライ

ビジネス

予算案、多くの主要野党の賛同を 年収の壁では所得制

ビジネス

追加利上げの場合、予期せぬ影響の可能性もあり注視=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中