目黒女児虐待死事件で逮捕された母親が手記に書いていたこと
2019年10月20日、私はシェイクスピアの「ヴェニスの商人」という本を読んでいた。ちょうど弁護士に自分が書いた日誌を見せようとしていた時期だった。
「小学生の頃だが、矢を一本見失うと、そいつを見つけだすために、同じ方向へもう一本同じような矢を射たものだ。今度はもっとよく注意してね。そんなふうに二本を賭けることによって、二本とも見つかることが多かった」(小津次郎・訳)
私はこのセリフを読んだ瞬間に覚悟を決めた。
事件と向き合うのは怖い。彼にもまだ向き合えていない。何回も見ている証拠もあれば、まだ見られていないものもある。
だけどちゃんと向き合うことができたなら、いつ、どのようにして、何を見失ったかがわかるのではないか、と思う。どうしてこんな結果を招いてしまったのか。それがわかれば、これから自分がどうすべきなのか、答えが見えてくるのではないか、と。(223〜224ページより)
言うまでもなく、どんなことがあっても結愛ちゃんが戻ってくることはない。この手記によって、優里被告が許されるというわけでもないだろう。しかし本書を読む限り、いまの彼女は現実と向き合いながら、「いまからできること、すべきこと」をしようとしているように思える。
だとすれば(単なる傍観者でしかないとはいえ)我々は少なくとも、そんな彼女の思いを理解するべきではないだろうか?
『結愛へ――目黒区虐待死事件 母の獄中手記』
船戸優里 著
小学館
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
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