最新記事

BOOKS

目黒女児虐待死事件で逮捕された母親が手記に書いていたこと

2020年2月25日(火)21時40分
印南敦史(作家、書評家)

innami20200225yua-2.jpg

本書の帯を取ると、このようなカバーが現れる Newsweek Japan


 結婚式直後のころと思う。何が原因だったか今となってはわからない。結愛が床に横向きに寝転がっていた時、彼が思い切り、結愛のお腹を蹴り上げた。まるでサッカーボールのように。
 私は結愛のそばのベッドに腰かけていて、すぐそばなのにあまりにもびっくりして、心をおおっているものにひびが入り、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。それらは腹の底の暗い闇に吸いこまれていった。腰を抜かしたような感じで立ち上がれず、どれぐらい時間が経ったろうか、ようやく泣きながら「やめて」と叫べた。
「結愛をかばう意味がわからない。お前が泣いている意味がわからない」
 おそらく彼を本気で怒らすことが直前にあったのだろう。
 結愛はきっと泣いていた。でも結愛の泣き声は聞こえない。彼の声だけしか聞こえない。
「結愛が悪いんだ。結愛を直さなくちゃいけない」
 この時のことは、題名のついた写真のように頭の中に保存されている。(52〜53ページより)


 彼の結愛への説教が始まると、私はひたすら早く終わりますようにと祈るだけ。だって間に入って結愛をかばえば、もっとひどくなるから。(54ページより)

そんな日常の中で優里被告はどんどん追い詰められ、精神状態が悪化していった。しかし精神科医にかかっても、児童相談所に話を持ちかけても、思いは伝わらなかった。

結果、「彼の言うとおり努力が足りないんだ、もっともっとがんばらなくては」と自分を追い込んでいくことになったのだ。そのことに関連して印象に残ったのは、2019年2月、優里被告が居房の中で知った千葉県野田市の小4女児虐待事件についての記述だ。


 2月4日(日)
 悲しいニュースがラジオから聞こえてきた。私と同じような母親が、また子供を見殺した。彼女の日々を思うと胸が苦しい。きっと夫の顔色にびくびくし、夫のご機嫌を取ろうとしていたに違いない。私もそうだったから。(132ページより)

この時期に優里被告は、何度も死のうとしている。布団の中に隠した長ズボンを首に巻き、締めつけて。しかし当然ながら死なるはずもなく、ただ絶望の縁に立たされる。

だが、周囲の偏見や無理解にさらされながらも、「一緒にがんばろう」と言ってくれた弁護士、そして精神科医のサポートを受けながら、少しずつ心を開き、自分自身と向き合っていくようになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ安定化・復興へ3段階計画 国務長官が

ワールド

EU、グリーンランド支持 国際法違反容認せず=コス

ワールド

トランプ氏、グリーンランド購入巡り活発な協議 NA

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏との会談を希望 「安全の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 5
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 8
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 9
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中