目黒女児虐待死事件で逮捕された母親が手記に書いていたこと
結婚式直後のころと思う。何が原因だったか今となってはわからない。結愛が床に横向きに寝転がっていた時、彼が思い切り、結愛のお腹を蹴り上げた。まるでサッカーボールのように。
私は結愛のそばのベッドに腰かけていて、すぐそばなのにあまりにもびっくりして、心をおおっているものにひびが入り、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。それらは腹の底の暗い闇に吸いこまれていった。腰を抜かしたような感じで立ち上がれず、どれぐらい時間が経ったろうか、ようやく泣きながら「やめて」と叫べた。
「結愛をかばう意味がわからない。お前が泣いている意味がわからない」
おそらく彼を本気で怒らすことが直前にあったのだろう。
結愛はきっと泣いていた。でも結愛の泣き声は聞こえない。彼の声だけしか聞こえない。
「結愛が悪いんだ。結愛を直さなくちゃいけない」
この時のことは、題名のついた写真のように頭の中に保存されている。(52〜53ページより)
彼の結愛への説教が始まると、私はひたすら早く終わりますようにと祈るだけ。だって間に入って結愛をかばえば、もっとひどくなるから。(54ページより)
そんな日常の中で優里被告はどんどん追い詰められ、精神状態が悪化していった。しかし精神科医にかかっても、児童相談所に話を持ちかけても、思いは伝わらなかった。
結果、「彼の言うとおり努力が足りないんだ、もっともっとがんばらなくては」と自分を追い込んでいくことになったのだ。そのことに関連して印象に残ったのは、2019年2月、優里被告が居房の中で知った千葉県野田市の小4女児虐待事件についての記述だ。
2月4日(日)
悲しいニュースがラジオから聞こえてきた。私と同じような母親が、また子供を見殺した。彼女の日々を思うと胸が苦しい。きっと夫の顔色にびくびくし、夫のご機嫌を取ろうとしていたに違いない。私もそうだったから。(132ページより)
この時期に優里被告は、何度も死のうとしている。布団の中に隠した長ズボンを首に巻き、締めつけて。しかし当然ながら死なるはずもなく、ただ絶望の縁に立たされる。
だが、周囲の偏見や無理解にさらされながらも、「一緒にがんばろう」と言ってくれた弁護士、そして精神科医のサポートを受けながら、少しずつ心を開き、自分自身と向き合っていくようになる。