シン・フェイン「勝利」で見えてきた南北アイルランド統一の現実味
The End of the Irish Political Duopoly
だがその後、ハウリンは党首辞任を発表。組閣への協力はあり得ないと語った。仮にシン・フェインが労働党の翻意とその他の左派政党の支持獲得に成功しても、それだけでは80議席に届きそうにない。
若干ながら複雑度が低いのは、緑の党などの独立系の第3党を交えたシン・フェインと共和党の連立というシナリオだろう。
共和党のミホル・マーティン党首は選挙戦中、シン・フェインとの連立を拒否していたが、総選挙の後に前言を翻した。ところが、党内での会議の末、2月13日になってシン・フェインとの連立の可能性を切り捨てた。
そもそもシン・フェインと共和党の連立は、複雑な妥協なしには実現しそうにない。得票率ではシン・フェインが上だが、議席数は共和党が上回っているとあって、どちらが格下の連立相手かという問いは厄介な取り決めにつながりかねない。両党のリーダーが交互に首相を務めるという、アイルランドでは過去に前例のない事態も予想される。
草の根の支持を得られるかという問題もある。カトリック系過激派組織IRA(アイルランド共和軍)の政治部門だったシン・フェインに対して、共和党は伝統的に懐疑的だ。2つの政党の連立は、それぞれの一般党員が是認した結果でなければならない。
一方、シン・フェインも共和党も自らが主導する連立政権を実現できないのであれば、新たな総選挙の実施という可能性もちらつく。
アイルランドにはこれまで、左派政党が率いる政権が存在したことがない。シン・フェインが与党になれば、過去とは違ったスタイルの政治になるだろう。しかしながらブレグジットやEUをめぐる主張、法人税率を12.5%に据え置く姿勢では、シン・フェインは共和党および統一アイルランド党と軌を一にする。
「北」でも起きた大変化
今回の総選挙では、南北アイルランドの統一を党是とするシン・フェインの正当性がさらに強化された。北アイルランドの6つの州を合わせて、同党は今やアイルランド島内の全州に選出議員を擁する政党になっている。
シン・フェインは、南北アイルランド統一の是非を問う投票(ボーダーポール)を2025年までに実施するという。同党が主導権を握れば、この点が連立に当たっての条件となり、新政権の重要な政策の1つになる可能性が高い。