最新記事

アイルランド

シン・フェイン「勝利」で見えてきた南北アイルランド統一の現実味

The End of the Irish Political Duopoly

2020年2月20日(木)19時40分
コルム・クイン(ジャーナリスト)

だがその後、ハウリンは党首辞任を発表。組閣への協力はあり得ないと語った。仮にシン・フェインが労働党の翻意とその他の左派政党の支持獲得に成功しても、それだけでは80議席に届きそうにない。

若干ながら複雑度が低いのは、緑の党などの独立系の第3党を交えたシン・フェインと共和党の連立というシナリオだろう。

共和党のミホル・マーティン党首は選挙戦中、シン・フェインとの連立を拒否していたが、総選挙の後に前言を翻した。ところが、党内での会議の末、2月13日になってシン・フェインとの連立の可能性を切り捨てた。

そもそもシン・フェインと共和党の連立は、複雑な妥協なしには実現しそうにない。得票率ではシン・フェインが上だが、議席数は共和党が上回っているとあって、どちらが格下の連立相手かという問いは厄介な取り決めにつながりかねない。両党のリーダーが交互に首相を務めるという、アイルランドでは過去に前例のない事態も予想される。

草の根の支持を得られるかという問題もある。カトリック系過激派組織IRA(アイルランド共和軍)の政治部門だったシン・フェインに対して、共和党は伝統的に懐疑的だ。2つの政党の連立は、それぞれの一般党員が是認した結果でなければならない。

一方、シン・フェインも共和党も自らが主導する連立政権を実現できないのであれば、新たな総選挙の実施という可能性もちらつく。

アイルランドにはこれまで、左派政党が率いる政権が存在したことがない。シン・フェインが与党になれば、過去とは違ったスタイルの政治になるだろう。しかしながらブレグジットやEUをめぐる主張、法人税率を12.5%に据え置く姿勢では、シン・フェインは共和党および統一アイルランド党と軌を一にする。

「北」でも起きた大変化

今回の総選挙では、南北アイルランドの統一を党是とするシン・フェインの正当性がさらに強化された。北アイルランドの6つの州を合わせて、同党は今やアイルランド島内の全州に選出議員を擁する政党になっている。

シン・フェインは、南北アイルランド統一の是非を問う投票(ボーダーポール)を2025年までに実施するという。同党が主導権を握れば、この点が連立に当たっての条件となり、新政権の重要な政策の1つになる可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中