最新記事

アイルランド

シン・フェイン「勝利」で見えてきた南北アイルランド統一の現実味

The End of the Irish Political Duopoly

2020年2月20日(木)19時40分
コルム・クイン(ジャーナリスト)

選挙結果を受けて、躍進に沸くマクドナルド(前列中央)と支持者 CHARLES MCQUILLAN/GETTY IMAGES

<歴史的なアイルランド総選挙の結果が示した2大政党制の終わり――混迷する組閣の行方と南北統一の現実味を占えば>

シナーズ・テイク・イット・オール──アイルランドのタブロイド紙は1面に、左派の民族主義政党シン・フェイン党の党員・支持者を意味するスラングと、「勝者総取り」を意味する慣用句をかけた見出しを掲げた。アイルランド総選挙の衝撃的な結果が、明らかになりつつあるさなかのことだった。

2月8日に行われた総選挙では、アイルランドの有権者にとって、北アイルランド問題が絡むブレグジット(イギリスのEU離脱)は重要な争点ではなかった。彼らがはるかに重視したのは、住宅や医療制度をめぐる危機のほうだ。

アイルランドは「もう2大政党制ではない」── シン・フェインのメアリー・ルー・マクドナルド党首のこの言葉を否定するのは難しい。

現在のアイルランド共和国の基となるアイルランド自由国が成立したのは1922年。以来、この国の選挙では毎回、いずれも中道の共和党と統一アイルランド党のどちらかが勝利してきた。単純に言えば、アイルランド島が南北に分割されてからほぼ100年、今回の総選挙のような事態は起きたことがなかったのだ。

だが今回、現在の与党・統一アイルランド党の議席数は1948年以降で最低に沈み、第3党となった。レオ・バラッカー首相は党首辞任の圧力に直面するだろう。2大政党制への支持が下降気味なことは、しばらく前から選挙結果に示されており、両党の得票率は合計約43%と過去最低だった。

統一アイルランド党と同様、独立戦争(1919~21年)後に結成された共和党は綱領もライバルと酷似しているが、2008年の金融危機時に政権の座にあったため、今も国民の信頼回復に苦慮している。

2011年の総選挙では、共和党の得票率はわずか17.5%で、51議席を失った。今回の得票率は22.2%。議席数で第1党になったとはいえ、シン・フェインにわずか1議席差に迫られた。

連立交渉は問題だらけ

シン・フェインは得票率24.5%を獲得し、アイルランド政治の歴史を塗り替えた。それでも有権者の支持は各政党に分裂しており、同党の明確な勝利とは言い切れない。

統一アイルランド党、共和党、シン・フェインの議席数はそれぞれ35議席、38議席、37議席。閣外協力という道を選択しないなら、議会の半数である80議席という数字を上回って政権を樹立できるかどうかは各政党の交渉次第だ。

今回6議席を得た労働党のブレンダン・ハウリン党首に、マクドナルドが早い時点で接触を図ったと報じられ、当初はシン・フェイン主導の左派連立政権誕生に向けた協議が進行するかと思われた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中