最新記事

犯罪

麻薬シンジケートに魅力の土地──パラグアイ「流血の街」

2020年2月12日(水)11時19分

大物は今も逃走中

再逮捕されたダ・クルス受刑者のこれまでの犯罪歴を振り返ると、パラグアイの抱える問題がよく分かる。

警察への供述によると、ブラジルで最も貧しいマラニャン州の北東部の寒村で生まれた彼は、10歳のときに西部のマットグロッソ州に移った。

2012年に麻薬の密売で収監、2015年に仮釈放制度で出獄すると、ペドロ・ファン・カバリェロへと国境を越えた。2016年に麻薬密輸容疑で逮捕され、市の刑務所へ送られた。収監後にPCCへに入り、雑務をこなすようになったという。

匿名を条件に取材に応じたブラジルの警官によれば、刑務所内でダ・クルス受刑者の立場は低かったという。

しかし収監中、彼はPCCの大物と知り合う。フレイタス刑事局長によると、この地域で暗殺任務を担当していたPCCの主力級10数人が、ダ・クルス受刑者に近い監房に入っていたという。

こうした大物も今回の脱獄に加わっており、なお逃走中だという。

ペドロ・ファン・カバリェロで脱獄が計画されている最初に情報が寄せられたのは12月中旬だった。

ホアキン・ゴンザレス・バルサ国家刑務局長は12月16日、組織犯罪を担当する捜査官らに文書を送付。その中で、刑務所の「犯罪グループから収監者を救出する」計画に関する密談を、刑務局が傍受したと注意を促した。ロイターは書簡のコピーにより、これを確認した。脱獄事件の発生後、ゴンザレス・バルサ局長は更迭された。

刑務所長からも類似の情報が寄せられており、ペレス法相は信頼性が高いと信じるに至ったという。同法相によると、12月中に刑務所の警備員と警察当局が施設内を一斉調査、しかしトンネルを掘っている形跡は見られなかったという。

ペレス法相はロイターの取材に対し、「再逮捕された受刑者の1人は、この捜索の後でトンネルを掘ったと供述している」と語った。「監視カメラをモニターをする業者からは何の警告もなかった。何も見ていないと彼らは言っている」

アスンシオンに本社を置く警備会社、SITのグスタボ・サンチェス代表はロイターに対し、脱獄が実行された夜に関する情報を法務省に提供したと話しているが、詳細については触れなかった。

ペレス法相によると、パラグアイは犯罪組織を取り締まるため、ブラジル右派政権との協力を強化するという。ブラジル政府は組織の資金を断ち切り、警備がより厳格な連邦刑務所に幹部らを送ることにより、活動を抑えようと試みている。

パラグアイのフレイタス刑事局長は効果に懐疑的だ。

「誰であれ、立ち向かう方法はない」とフレイタス局長は言う。犯罪組織は「(邪魔する者たちの)家族を特定し、親戚や裁判官、検察官、警察官に圧力をかける」

(翻訳:エァクレーレン)

Gabriel Stargardter Daniela Desantis

[ペドロ・ファン・カバリェロ(パラグアイ)ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中