最新記事

犯罪

麻薬シンジケートに魅力の土地──パラグアイ「流血の街」

2020年2月12日(水)11時19分

パラグアイは魅力的な活動拠点

ブラジル、アルゼンチン、ボリビアに囲まれたパラグアイは、世界有数のマリファナ生産国であり、アンデス地域で生産されるコカインの主要な中継点である。パラグアイは貧困国で、1人あたりの国内総生産(GDP)はナミビアと同程度である。また汚職事件も多く、トランスペアレンシー・インターナショナルが発表した2019年の腐敗認識指数によれば、南米諸国のなかではベネズエラに次いで政治腐敗が多い。

結果的に、サンパウロを拠点とするPCCやリオデジャネイロの「レッド・コマンド」といったブラジルの犯罪組織にとって、パラグアイは魅力的な活動拠点となっている。

パラグアイ当局によれば、こうした犯罪組織は刑務所の内外を問わず、ほぼ傍若無人に活動しているという。パラグアイ国家警察のジルベルト・フレイタス刑事局長によると、PCCは囚人を自分たちの組織に加入させるため、積極的に「洗礼」を与えているという。

パラグアイの刑務所に収監されているPCCメンバーは500人と、フレイタス氏は推定する。組織の積極的な勧誘活動により、その数は昨年から倍増した。同じくパラグアイ国家警察のルーベン・パレデス氏は、さらに多いとみている。国内の受刑者1万6000人のうち、約10%はブラジルの犯罪組織に加入していると推計する。

パレデス氏によると、刑務所の外で活動しているメンバーはさらに多く、議員を買収し、警察にも賄賂を渡しているという。

「流血の街」と呼ばれるペドロ・ファン・カバリェロは、ブラジルの麻薬犯罪組織にとって特に魅力的な拠点となっている。隣接するブラジルの自治体ポンタ・ポランと一体化している。国境を挟んで、双方の住民はやすやすと行き来している。

ブラジル、パラグアイ両国の当局者によると、ボリビア産のコカインを積んだ小型飛行機が、ペドロ・ファン・カバリェロ郊外の人里離れた滑走路に頻繁に着陸している。コカインは、そこからブラジル南部を経由し、需要が拡大している欧州へと運ばれるのだという。

その副産物として、ペドロ・ファン・カバリェロでは殺害された遺体の発見数が増大している。犯罪組織が密輸ルートの支配をめぐって抗争しているからだ。

ホセ・カルロス・アチェベド市長によると、人口12万人の同市では昨年150件以上の殺人事件が発生した。犯罪グループは治安組織を冷笑しており、市民は怯えながら生活しているという。

「警察は完全に腐敗している」と、アチェベド市長は語る。

パラグアイの最有力紙「ABCカラー」は1月30日付の社説で、こうした状況を嘆き、多くの警察官にとって、麻薬密輸業者への支援・幇助を通じて「違法な副収入」を稼げるため、ペドロ・ファン・カバリェロ市への異動が「ゴールデン・ドリーム」になっていると指摘した。

市警察は市長の指揮下にはない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中