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習近平は「初動対応の反省をして」いないし「異例」でもない

2020年2月5日(水)18時46分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

李克強国務院総理が習近平国家主席の委託を受けて主催している国務院の「新型コロナウイルス感染の肺炎流行と防御抑制活動(工作)指導グループ(領導小組)」も昨日までに何回も会議を開催している。この会議の中でも「早報告」や「漏報告」といったフレーズが頻出する。暗に武漢に対して、「いい加減にしろ」と言っているわけだ。

この指導グループの中には孫春蘭という、全中国の健康や衛生を司る副総理がいる。彼女の管轄下に中国の全ての健康衛生関係や厚生福利関係などが入っている。ちょうど米中貿易交渉の先頭に劉鶴副総理(経済担当)が立っているのと同じ立ち位置だ。

情報を歪める目的は何か?

この指導グループに関してさえ、李克強を組長としたので、これは権力闘争だという論説がまかり通っている。胡錦涛時代に温家宝(首相=国務院総理)が四川地震の現地訪問の先頭に立ったことでも分かるように、国務院総理が災害の現地視察に行くことが中国では慣例になっている。

2002年に発生したSARS(サーズ)の時は江沢民がなんとか胡錦涛政権にバトンタッチする時(2003年3月の全人代)まで公表を延ばし、胡錦涛のせいにしようとしたために、胡錦涛政権が誕生した後、江沢民との違いを人民に見せるために胡錦涛国家主席が現地視察に行ったことがあるが、これは例外だ。

権力闘争論者たちは、習近平は自分が危険な武漢に行きたくないので、李克強に押し付けたという分析をしており、また指導グループに健康衛生関係者がいなくて習近平の側近で固めているのは李克強の暴走を止めるためだと指摘しているが、健康衛生関係の最高トップである孫春蘭副総理がいる。それで十分だ。

こういった事実歪曲は何の目的で成されるのかが問題である。

日本人の注意を引きたいからだとすれば、自分可愛やの思考が優先していることになる。日本国民の利益を軽視している。

今般の共同通信のような「歪んだ真相の伝え方」をする目的は何だろうか?

決して意図的ではなく、中国語の読解力の問題だろうか?

目的はご本人に聞いてみないと分からないが、少なくともいま日本では「習近平が初動対応の遅れを認めた。習近平が自省するのは異例のことだ」というワンセットの言葉が独り歩きして、誰もがこの方向でしか報道していない。

これが修正もされずに流布していったときに、何が起きるかを考えてみよう。

その影響を考えると、たとえばだが、「習近平には謝罪する気持ちがあるんだ」→「ならば許してあげようか」→「ならば、国賓として来日させてもいいのではないか」という連想へと日本人を導く危険性がないと断言できるだろうか?

それがないことを、ひたすら祈るのみだ。

ジャーナリストの方々には、「真実を伝える」という使命を忘れないようにしてほしいと切望している。そうでないと、日本の国益を損ねることを危惧する。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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