最新記事

中国

習近平は「初動対応の反省をして」いないし「異例」でもない

2020年2月5日(水)18時46分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

そのようなことをすれば、正確な状況判断を中国に関してできない状況に日本人を追い込むことになり、日本国民の利益に貢献しないことを肝に銘じるべきだ。

自省するのは異例ではない

習近平に限らず、国家の指導者が「自省」をしてから「重要指示を出す」というのは、これまでずっと中国で一貫して行われてきたことだ。

毛沢東時代は省くとして、近くはトウ小平が日本の新幹線に乗って帰国した後に改革開放の号令を掛けた時には(日本に比べて)「我が国はまるで廃墟だ!」と叫んでから改革開放の指示を出した。またソ連が崩壊した後の1992年1月に南巡講話をした時には、改革開放が遅々として進まない状況を「まるでヨチヨチ歩きの纏足女のようだ!」という侮蔑用語まで使っている。すべて檄を飛ばすのが目的だ。

中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布する前も、習近平は「我が国の様(さま)を見ろ!組み立て工場プラットホーム国家に甘んじていれば中進国の罠に陥る!」と「自省」をした上で檄を飛ばし、国家戦略を発布した。

都市化を進める「新型国家城鎮化計画」の時も同じだ。「我が国の都市化率のなんと低いことよ!」と嘆いた上で、農民工が帰郷できる田舎の郷鎮を城(都市)にしろと指示を出している。

ブロックチェーン技術を促進させよという談話を出す時にも「一回行けば済むようにせよ!」という役所の複雑性と怠慢を例に挙げている。これに関しては2019年11月5日付のコラム<習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度>の「四」に書いた。

今般、習近平がチャイナ・セブン会議で「要1」に書いたような「ダメじゃないか!」という内容のことを言ったのは、「だから改善せよ!」という檄を飛ばすためである。

武漢の病棟が足りないために突貫工事で1000床のベッドを備えた病院を10日ほどで建ち上げたのも、その改善の一つだが、このチャイナ・セブン会議の指示により、本日(2月5日)、武漢では11の体育館や博物館などの大きな公共施設が、突貫工事で緊急医療施設に作り替えられている。こういったことに「緊急に対応しろ!」と言っているのである。

「人民の不満を抑えるため」と大手メディアも報道しているが、それもあろうが、もっと大きいのは本格的なパンデミックになって中国共産党による一党支配体制が崩壊してしまうことを習近平は最も恐れているだろう。米中覇権競争の中、完全にアメリカに負けてしまい、中国経済も立ち行かなくなることを恐れているはずだ。

特に重要なのは「要5」で、これは正に武漢の赤十字会の不正行為を非難したものである。最も言いたいことを、文書の最後に持ってくるのは政府文書の特徴だ。

習近平が1月20日に今般の新型コロナウイルス肺炎に関する「重要指示」を出してから1月25日にもチャイナ・セブン会議を開き、

  「早報告」をしろ(早く報告しろ)!

  「漏報告」を無くせ(報告の漏れを無くせ)!

などという言葉を使って武漢を批判している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中