最新記事

中国

言論弾圧と忖度は人を殺す──習近平3回目のテレビ姿

2020年2月13日(木)12時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ただ、中国共産党系メディアがこのようなことを書いた事実は非常に慎重に、深く考察する必要がある。

たしかに胡錫進は割合にリベラルなことを書くことで知られているが、しかし、これはある意味で北京政府のガス抜きの偽装工作なのかもしれない。

李文亮の死でネットが燃え上がると、北京は直ちに中共中央から監察委員会代表を武漢に派遣し、「中央は重視しています」というポーズを取って見せた。そうでもしなければ人民の怒りが収まらなかったからだ。

環球時報の胡錫進が表した「李文亮への哀悼と湖北および武漢政府への怒り」は、その「ポーズ」の一つであったかもしれず、胡錫進が「人民の声を代弁してくれた」と思うのは早計かもしれない。そして逆に「悪いのは湖北政府と武漢政府であって、習近平ではない」という「中央の声」をほのめかしてあげたのかもしれないということにも、注意を向けておく必要があるだろう。

いずれにせよ、そんなことまで仕組まなければならないほど、人民の怒りが強く、習近平を、公けの場に姿を現さざるを得ないところに追い込んだのだけは確かだ。

言論弾圧と忖度は「殺人行為」

李文亮の死と新型コロナウイルス肺炎の流行が意味するのは、「言論弾圧と忖度政治は人を殺す」という事実である。

1月24日のコラム「新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?」で書いたように、もし武漢政府の「北京に対する忖度」による偽装行為がなかったら、李文亮の死もなくて済んだし、そもそも新型肺炎のパンデミックと言っていいほどの猛威もなかったはずだ。

ならば武漢や湖北などの地方政府だけが悪いのかと言ったら、もちろん彼らは第罪人だが、しかしそればかりではなく、元をただせば地方役人の精神構造をそこに持って行った中国共産党による独裁政治が悪いのであり、「一党支配体制による言論弾圧とそれが生んだ忖度精神」が「人間を殺す行為」と直結しているということに私たちは注目しなければならない。

これは日本の政治の現状にも一脈通じるものがあり、深層に流れるこの「殺人行為」に、人類は目を向けなければならないと思う。

このような中で、習近平を国賓として日本に招聘することなど「論外!」だと言っていいだろう。

新型肺炎の問題がなくとも、習近平を国賓として日本に招く行為が、どれだけの災禍をもたらすかに関しては拙著『激突!遠藤vs.田原 日中と習近平国賓』で思いのたけを述べた。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中