SB孫会長、ブレア元英首相らインドネシア首都移転の「顔」に 投資期待も移転は実現可能?
首都移転、実現に疑問の声は与党からも
首都ジャカルタの人口集中に伴う渋滞、物流の停滞などに加えて地盤沈下、洪水などの災害といった弊害を避け、地理的に広大なインドネシアの東西南北のほぼ中心に位置し、自然災害の可能性が低いとされる東カリマンタン州に首都を移転する計画は、ジョコ・ウィドド大統領の「国民に夢を与える政策」を企図したものとして発表された。
しかし発表直後から巨額資金の捻出方法、新首都予定地の開発に伴う自然破壊や活断層の存在の可能性、経済界の否定的見解などから実現を疑問視する声が相次いでいるもの事実だ。
2024年にも首都移転に着手したいとするジョコ・ウィドド政権だが、2019年に再選を果たしたジョコ・ウィドド大統領の大統領任期は2024年までであり、さらに憲法の再選規定で次期大統領選挙への出馬はできない。
つまり首都移転計画を政権の浮揚策として具体的な準備をあれこれと推進してはいるものの、移転開始時期以降はジョコ・ウィドド大統領はもはや政権に留まっていないという現実がある。
こうした点や現在のジャカルタが過密状態であるとはいえ政治・経済・社会・文化の中心地であることには間違いなく、首都移転がどこまで現実的に可能かについては財務当局も大いに疑問を抱き、醒めた目で見ているとされる。
最大与党でジョコ・ウィドド大統領の支持母体でもある「闘争民主党(PDIP)」の幹部ですら「経済機能の移転は困難というのが現実であり、首都移転計画がもし実現するとしても首都機能の一部移転、つまり自然が豊かな東カリマンタン州だけに環境行政を司る官庁などの移転だけで終わるのではないか」と発言する状況だ。
それであっても「首都機能を地方に分散することで部分的には首都移転を果たしたと国民や国際社会には説明できるとジョコ・ウィドド大統領や政府は考えているのではないだろうか」(PDIP幹部)というのだ。
そうしたインドネシア側の現実をどこまで理解して孫会長が投資に積極的な姿勢を示しているのかは不明だが、インドネシア財界からも「巨額の赤字を抱えていると伝えられるソフトバンクからの大規模投資には現実味があるのだろうか」との懸念の声もでている。
ソフトバンクは2019年7月にインドネシアで出資している配車大手のグラブ社を通じて電気自動車事業に約20億ドル規模の投資をすることを発表しており、インドネシアとの関係を強めている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。