「蔡英文再選」後の台湾はどこへ
XI JINPING’S TAIWAN CHALLENGE
例えば民進党内の独立派が、この勢いに乗じて独立の姿勢をもっと明確に打ち出すべきだと、蔡に圧力をかけるかもしれない。アメリカの対中強硬姿勢を、台湾が中国に対してもっとケンカ腰の姿勢を取ることへのゴーサインと受け止める可能性もある。その結果、台湾が明らかに独立に向けた積極的行動を起こせば、中国政府は厄介な対応を迫られることになる。
今年はアメリカも大統領選挙の年だから、中国が台湾に軍事的な脅しをかければ、トランプは強気の(ただし攻撃的ではない)対応を取る誘惑に駆られるだろう──台湾の独立派はそう踏んでいる。だから彼らは、国歌の変更など、台湾の法的地位を変更する試みと解釈できるような措置を蔡に迫る可能性がある。
こうした微妙な措置は、中国政府にとってはストレートに対応しにくい。中華民国から台湾共和国に国名を変えるなら、中国政府として絶対容認できない一線を越えた行為と言えるが、国歌の変更はそこまであからさまではないからだ。こうした揺さぶりをかける独立派の勢力拡大が、第2次蔡政権にとって大きな試練になるのは間違いない。
現実主義者の蔡は、国歌変更のような象徴的な措置は中国を刺激するだけで、台湾にとっては本質的な利益にならないことを理解している。それよりも蔡が最優先課題に掲げるのは、台湾経済の競争力強化だ。だが中国との関係が悪化すれば、台湾経済がダメージを受け、蔡政権に対する世論の風当たりが強くなるのは間違いない。
習は国家主席就任以来、国内外で次々と議論を呼ぶ措置を取り、リスクのある決断もいとわないという評判を確立してきた。だが台湾に関しては難しい舵取りを迫られている。黙っていれば、国内の批判派から弱腰と見なされる恐れがあるが、大規模な軍事演習を実施するなどして台湾に脅しをかければ、ほぼ確実にアメリカの介入を招くだろう。
96年の台湾海峡危機で米中がにらみ合ったときには、中国は米海軍に深刻な打撃を与えるような海軍力・空軍力を持ち合わせていなかったが、今回は違う。20年の危機はより危険なものになり得る。
今の中国は音が静かで探知不能な潜水艦や長距離の対艦巡航ミサイルを保有し、米空母打撃群にとって直接的な脅威となり得る。米軍と中国軍が間近でにらみ合えば一触即発の危険性が一気に高まる。50年代後半の台湾海峡危機以来の事態だ。
当然ながら米中はどちらも今年こうした事態が勃発することを望んでいない。米政界は超党派で台湾を強力に支持しているが、台湾問題で中国と壊滅的な戦争に突入することなど誰も望んでいない。回避可能な戦争であればなおさらだ。
習にしても台湾に対して強硬なレトリックを使いはするが、米軍との直接対決に発展しかねないリスクがある以上、軍事行動は何としても避けたいだろう。当面危ない橋を渡る可能性はないとみていい。