米イラン対立、それでも報復が実行される理由
IRAN HAS BIGGER PLANS FOR REVENGE
「彼女の持つ情報はどれも古くなっているが、イラン側は彼女から米軍の思考回路を探り出せる」と元DIA副長官のワイズは言う。「これからの非対称戦に備えてアメリカがどんな防衛策を取るか、イランにとっては貴重な情報が得られる」
イランは米軍による猛攻撃を招かないよう、比較的に地味な標的を選んで散発的な攻撃を仕掛けるかもしれない。外国にいる政府関係者や施設が狙われそうだ。中南米、東南アジア、中東で、アメリカの外交施設に何者かが爆弾を仕掛ける。あるいは外交官に成り済ましたCIA要員の身元が割れて標的とされる。
世界各地で散発的に執拗に
そういう作戦が、例えばヒズボラによって遂行されれば、イラン側の思惑どおりとなる。繰り返しアメリカに痛い思いをさせてやり、それでもイランは直接的な責任を認めないで済むからだ。
複数の元情報当局者らが心配するように、最悪の場合はイランかヒズボラが米国内でテロ攻撃に出る恐れもある。実際、2011年にはクッズ部隊の要員が首都ワシントンで、駐米サウジアラビア大使の爆殺を計画していた。これは未然に防ぐことができたが、今度はソレイマニの地位にふさわしいもっと高位の標的が検討されているかもしれない。
イランとその手先の勢力は入念に攻撃の準備をしている。米国内に情報要員を潜伏させ、攻撃しやすい標的を探している。昨年にはアメリカでの裁判でイラン人の男2人が、イランの情報活動に従事した罪を認めた。そのうちの1人はシカゴのユダヤ教施設の下見を行い、米国内に住む反体制派イラン人に関する情報をとりまとめていた。
やはり昨年、ニューヨークでレバノン系米国人アリ・コウラニがヒズボラ要員としての活動で有罪になった。米政府施設とジョン・F・ケネディ国際空港について標的を定めるための資料を集めていたという。
ちなみにコウラニは10年に、ニューヨーク在住の現役または退役イスラエル兵を暗殺候補として調べるよう、ヒズボラから指示されていた。ヒズボラ幹部イマド・ムグニアがイスラエルに殺害されたことへの報復という位置付けだった。
記憶は消せない。当初の爆発的な怒りの表現(イラク内の米軍基地へのミサイル攻撃や中東にある米外交施設の襲撃など)はやがて静まるとしても、世界のどこかで散発的だが執拗な報復が繰り返されることだろう。戦争ではないが、平和とは程遠い状況が続くのだ。
かつて哲学者のハンナ・アーレントは書いた。「暴力の行使は世界に変化をもたらす。ただし、おそらくはもっと暴力的な世界への変化だ」と。その証拠が、ソレイマニの血塗られた遺産なのだろう。
<2020年1月21日号「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集より>
2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。