最新記事

米イラン危機:戦争は起きるのか

米イラン対立、それでも報復が実行される理由

IRAN HAS BIGGER PLANS FOR REVENGE

2020年1月15日(水)11時50分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

「こうなると何が正義か分からなくなる」と懸念するのは、かつて国防総省情報局(DIA)の副長官だったダグラス・ワイズ。ソレイマニ暗殺以来、筆者は米情報当局の元職員6人以上から話を聞いたが、この懸念は全員が共有していた。そして彼らの大半は、トランプ政権が十分な準備も熟慮もなしに、この決定的な行動を取ったことに驚いていた。

イラク政府の職員と密に連絡している米情報機関の元職員によれば、中東諸国の情報機関もアメリカとイランの紛争が「大規模な報復的暴力の連鎖」になることに「強い懸念」を抱いている。

「ソレイマニは最高指導者の意を受けてイラクを動かしていた」とこの人物は言う。そのソレイマニを殺された「最高指導者が、自分の身を切られたに等しいと感じたら次はどう出るか?」。

この人物によれば、イランは湾岸のクウェートやバーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などにもスパイ網を張り巡らしており、そこから得られる情報を基に、クッズ部隊が秘密工作の計画を立てている。つまりイランはこれらの国で、いざとなれば軍事作戦やテロ攻撃を「促す」ことができる。

だから8日未明のミサイル攻撃くらいで済むわけがない。今後も流血の事態は避け難いだろう。「おそらく世界各地で、しかもイラン側が選んだ時と場所で、強力な報復攻撃が起きることはほぼ間違いない」。中東情勢とテロ対策に詳しいCIA高官で、昨年6月に退職したばかりのマーク・ポリメロプーロスはそう言う。「必ずや多くのアメリカ人が、大きな痛手を負うだろう」

CBSのテレビ番組に出演した元CIA副長官のマイケル・モレルも「このせいでアメリカ人が死ぬ。アメリカの民間人が死ぬことになる」と述べていた。

イランは超大国アメリカを相手に回す非対称戦を、何十年も前から準備してきた。イランの核開発を阻もうとする米軍からの限定的なミサイル攻撃はもちろん、イスラム共和国としてのイランに対する正面攻撃も想定しているからだ。

早くも1990年代に、アメリカはイランの工作員やヒズボラの関係者が標的候補の下見をする様子を把握していた。中東だけでなく中南米や欧州、北米でも外交施設や文化施設、基地などが狙われていた。

イラン側は、異国にいるアメリカの政府関係者を標的とし、付きまとうこともあった。2013年頃にはヨーロッパで、身分を伏せて活動している国防総省の工作員らの命が危ないとの情報が寄せられ、アメリカ側は対応に追われた。

米秘密工作員に関する情報を漏らしていたのは、米空軍の元情報将校で13年にイランに亡命したモニカ・ウィットだろう。今回の事態でウィットの存在価値は上がった可能性がある。

【参考記事】最恐テロリストのソレイマニを「イランの英雄」と報じるメディアの無知

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米を不公平に扱った国、関税を予期すべき=ホワイトハ

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中