米イラン対立、それでも報復が実行される理由
IRAN HAS BIGGER PLANS FOR REVENGE
「こうなると何が正義か分からなくなる」と懸念するのは、かつて国防総省情報局(DIA)の副長官だったダグラス・ワイズ。ソレイマニ暗殺以来、筆者は米情報当局の元職員6人以上から話を聞いたが、この懸念は全員が共有していた。そして彼らの大半は、トランプ政権が十分な準備も熟慮もなしに、この決定的な行動を取ったことに驚いていた。
イラク政府の職員と密に連絡している米情報機関の元職員によれば、中東諸国の情報機関もアメリカとイランの紛争が「大規模な報復的暴力の連鎖」になることに「強い懸念」を抱いている。
「ソレイマニは最高指導者の意を受けてイラクを動かしていた」とこの人物は言う。そのソレイマニを殺された「最高指導者が、自分の身を切られたに等しいと感じたら次はどう出るか?」。
この人物によれば、イランは湾岸のクウェートやバーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などにもスパイ網を張り巡らしており、そこから得られる情報を基に、クッズ部隊が秘密工作の計画を立てている。つまりイランはこれらの国で、いざとなれば軍事作戦やテロ攻撃を「促す」ことができる。
だから8日未明のミサイル攻撃くらいで済むわけがない。今後も流血の事態は避け難いだろう。「おそらく世界各地で、しかもイラン側が選んだ時と場所で、強力な報復攻撃が起きることはほぼ間違いない」。中東情勢とテロ対策に詳しいCIA高官で、昨年6月に退職したばかりのマーク・ポリメロプーロスはそう言う。「必ずや多くのアメリカ人が、大きな痛手を負うだろう」
CBSのテレビ番組に出演した元CIA副長官のマイケル・モレルも「このせいでアメリカ人が死ぬ。アメリカの民間人が死ぬことになる」と述べていた。
イランは超大国アメリカを相手に回す非対称戦を、何十年も前から準備してきた。イランの核開発を阻もうとする米軍からの限定的なミサイル攻撃はもちろん、イスラム共和国としてのイランに対する正面攻撃も想定しているからだ。
早くも1990年代に、アメリカはイランの工作員やヒズボラの関係者が標的候補の下見をする様子を把握していた。中東だけでなく中南米や欧州、北米でも外交施設や文化施設、基地などが狙われていた。
イラン側は、異国にいるアメリカの政府関係者を標的とし、付きまとうこともあった。2013年頃にはヨーロッパで、身分を伏せて活動している国防総省の工作員らの命が危ないとの情報が寄せられ、アメリカ側は対応に追われた。
米秘密工作員に関する情報を漏らしていたのは、米空軍の元情報将校で13年にイランに亡命したモニカ・ウィットだろう。今回の事態でウィットの存在価値は上がった可能性がある。