最新記事

米イラン危機:戦争は起きるのか

米イラン対立、それでも報復が実行される理由

IRAN HAS BIGGER PLANS FOR REVENGE

2020年1月15日(水)11時50分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

レバノンで昨年春の反イスラエル抗議デモに参加したヒズボラ AP/AFLO

<工作員は南米にも東南アジアにも東欧にも潜んでいる。「おそらく世界各地で、強力な報復攻撃が起きる」と元CIA高官。極めて重要な国際規範に抵触したソレイマニ殺害は、ブーメランのように返ってくる。本誌「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集より>

米軍が暗殺したガセム・ソレイマニ司令官はイランの最高指導者アリ・ハメネイの腹心であり、事実上のナンバー2と目されていた男。もちろん、ただでは済まない。
20200121issue_cover200.jpg
その不穏な残響は中東だけでなく世界中で、この先何年、何十年も漂い続けることだろう。だが当座の問題として、新たな(たぶんアメリカ人の)犠牲者が出ることは覚悟したほうがいい。複数のアメリカ情報当局筋がそう語った。イラクにある米軍基地への1月8日のミサイル攻撃は、その始まりにすぎない。

報復を実行するのは、ソレイマニ自身の「遺産」だ。彼の率いたクッズ部隊は軍隊であると同時に諜報機関でもあり、レバノンやイラク、イエメン、シリア、アフガニスタンだけでなく世界各地で、シーア派系の過激な集団を育ててきた。

ソレイマニは知っていた。ロシアや中国と違って、イランにはアメリカと正面切って対決する力はなく、今後もあり得ないことを。だからこそ違う戦い方を準備してきた。アメリカからの攻撃を(少なくともイラン側の思考回路では)抑止するに足る「非対称的」な反撃手段だ。

レバノンを拠点とする世界最強のテロ組織ヒズボラを動かしてもいい。そういう組織を通じて、国家間の全面戦争には至らない範囲の派手な攻撃を繰り出せばいい。

手段はたくさんある。テロリストを使った暗殺や、路肩に潜ませた手製の爆発装置、イランに共鳴する武装集団による民間施設やユダヤ人の集会所、外国人の乗った観光バス、大使館などへの爆弾攻撃。こうした事例は、イランという国が伝統的な意味で力を誇示できるほどの軍隊を持たなくても、国境を越えて強い影響力を行使できることを明確に示している。

こうしたツールを駆使して、イランは中東のみならず世界各地で、ソレイマニ暗殺への報復を遂行するだろう。他国の軍隊の要人を暗殺すれば、必ずや自国の関係者の命が狙われる。それくらいは米国防総省や情報機関の幹部たちも承知している。

イランであれヒズボラであれ、その工作員は南米にも東南アジアにも東欧にも潜んでいる。それに「未知の悪魔は既知の悪魔より始末が悪い」と、ある元高官は言う。「わが国は一線を越えてしまった」

magSR200115iranplans-chart.png

2020年1月21日号「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集26ページより

政府高官を暗殺した重み

アメリカは過去にも外国で著名なテロリストを殺害してきた。イエメンではアルカイダ系組織の指導者アンワル・アル・アウラキを、シリアではISIS(自称イスラム国)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディを殺害した。しかしソレイマニは(テロリストを操ってはいたが)一国の政府の高官だ。ここに決定的な違いがある。

この違いを無視することで、トランプ米政権は国際社会の重要な規範を破った。アメリカの公人に、しっぺ返しが来るのは必至だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中