最新記事

台湾のこれから

蔡英文「優勢」の台湾総統選、有権者の揺れる思いと投票基準

TAIWAN’S VOTER PREFERENCE

2020年1月8日(水)16時30分
王純美(台湾人ジャーナリスト)

松山城南高校の生徒たちを迎えた蔡英文(蔡英文のツイートより) @iingwen-YouTube

<「タピオカミルクティーは飲みましたか?」――この動画を見て、うれしくない台湾人はいない。大国の事情に振り回されてきた台湾。なぜ蔡英文は再選の可能性が高いのか。有権者は何を思うのか。本誌「台湾のこれから」特集より>

2019年12月4日、日本の松山城南高校の生徒たちが修学旅行で台湾総統府を訪れたとき、サプライズが起きた。蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が突然生徒たちの前に現れ、挨拶したのだ。彼女は寒くなったので風邪をひかないように、と声を掛けながら、驚く高校生たちに「タピオカミルクティーは飲みましたか?」と聞いた。
20200114issue_cover200.jpg
この様子を撮影した動画はSNSで次々とシェアされた。これを見て、うれしくない台湾人はいない。私たちの女性総統は高校生にも決して偉そうにせず、台湾のタピオカミルクティーが日本で大人気という流行の情報にも詳しい──。

実際、蔡に対する多くの台湾人の印象は「きちんとした人」だ。議論は論理的で「想定外」はない。時には「原稿読み上げ機」とすら呼ばれる。しかしここ数年、彼女は「ソフト化」を決断し、あえて大衆との距離を縮めた。ネットの人気ライブ番組にも出演した。そのため、特に若者の間で親しみやすい印象が広がっている。

しかし蔡は16年5月の総統就任時から、今のような人気を保っていたわけではない。むしろ、就任直後は退職軍人・公務員の年金改革や変則的週休2日制度の導入が企業経営者らの反発を招いた。

その結果が18年11月24日の統一地方選挙における与党・民進党の雪崩的な大敗だ。計22の県・市長選挙で民進党は現有の13 から6に転落した。ライバルの国民党は6から15に増やし、なかでも「韓流旋風」を巻き起こした韓國瑜(ハン・クオユィ)は民進党の陳其邁(チェン・チーマイ)を破り、高雄市で20年間続いた民進党政権を終わらせた。

実際、このとき国民党支持者は奮い立っていた。2020年総統選で国民党が勝利の切符を握るというコンセンサスが広がったからだ。党が長年育ててきた新北市長(当時)の朱立倫(チュー・リールン)がその最も有望な候補であると考える人は少なくなかった。

magSR200108taiwanvoters-top.jpg

自動車が増えたが昔ながらの小型バイクも相変わらず台湾人の大事な交通手段 TYRONE SIU-REUTERS

「無言の抗議」という選択肢も

しかし、外部環境の変化によって台湾人は国民党に疑問を抱き始める。

最初の影響は中国からやって来た。ドナルド・トランプ米大統領が就任後に始めた貿易戦争による経済的圧力の下、中国国内のナショナリズムが激化。政府は台湾に「文攻武嚇(言葉で攻撃し武力で威嚇する)」を仕掛けることで、国民の注意をそらし始めた。中国軍機や中国軍艦による軍事的威嚇、台湾と国交のある国への断交要請に加え、習近平(シー・チンピン)国家主席は19 年1月2日、「一国二制度」を台湾に迫った。台湾人は強い不安を感じた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中