新型肺炎の感染はタイ、フィリピンにも ASEAN各国、春節休暇で厳戒態勢へ
懸念残るカンボジア、中国人観光客の押し寄せるインドネシア
中国人労働者が大挙して建設業や土木工事に従事し、また彼らをあてこんだホテルやカジノ、レストランを経営する中国人も多数滞在し、春節で帰省や家族訪問などによる行き来が増加することでASEAN加盟国中最も感染拡大が懸念されているのがカンボジアだ。しかしこれまでのところ疑わしき症例を含めて新型コロナウイルスの影響は報告されていないという。
カンボジアは国内の3つの国際空港のうち、プノンペンを除くシアヌークビル、シェムリアップの2空港に武漢からの直行定期便が就航しており、カンボジア保健当局は当該便の乗客を中心に監視態勢を強化している。
だがカンボジアの医療技術、ウイルス検査の設備などが十分なものとはいえない側面もあり、監視や感染者の確定、治療についても「自ずと限界がある」とのASEAN医療関係者の見方も強く、今後の感染拡大への懸念が強まっている。
ASEANで最も人口が多く春節には世界的観光地のバリ島などに例年多くの中国人観光客が押し寄せるインドネシアは、デンパサール(バリ島)、ジャカルタなどの国際空港をはじめ、シンガポールに近く中国系インドネシア人とシンガポール人が多数出入りするバタム島の空港などで中国人観光客や中国からの到着便の乗客などへのサーモグラフィーや手持ちの簡易体温計測器などによる体温検査の強化を始めている。
インドネシア医療関係者によると23日までに感染やその疑いのある患者の届けはないという。
インドネシア国内ではジャカルタ中心部サレンバにある「エイクマン分子生物研究所」の研究施設がウイルス検査で秀でた実績と能力があるとされており、「6種類あるとされるコロナウイルスの検査、確定も可能である」(インドネシア人医師)と、感染検体の検査への準備を整えている。
SARSで100人超の感染者を出したシンガポールは?
ASEANで中華系人口が大半を占めるシンガポールは2002~03年にかけて世界的に感染が拡大したSARSが上陸した際、国をあげての対処した経験を踏まえ、すでに万全の態勢を整えている。
SARSで感染者数100人超、死者3人を出したシンガポールは、臨時に法律を整備して感染者が発症までに接触したすべての人を強制的に隔離(約10日間)したり、特定の病院を感染者隔離の専門施設に指定するなどして隔離と治療を強化させた。
こうした政府主導による徹底的な対策の経験を活かし、今回も感染が疑われた26歳と52歳の男性や44歳の女性を素早く隔離して検査した。幸いなことに検査の結果これまで全員が新型コロナウイルスによる感染ではなかったことを確認した、とシンガポール保健省は発表している。
ASEANのハブ空港でもあるシンガポールのチャンギ空港では、これまで中国・武漢からの到着便乗客に限定していた入国の際の検査を1月22日からは中国から到着する全ての旅客便の乗客を対象とするように拡大している。
シンガポールなどでは2003年にSARSの感染拡大が始まったのが当時の春節の時期以降であったことから、25日から始まる今年の中国人の大規模移動時期に合わせて警戒をさらに強める方針という。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2020年1月28日号(1月21日発売)は「CIAが読み解くイラン危機」特集。危機の根源は米ソの冷戦構造と米主導のクーデター。衝突を運命づけられた両国と中東の未来は? 元CIA工作員が歴史と戦略から読み解きます。