フィリピン、資金難のイスラム過激派が「誘拐ビジネス」 インドネシア人漁民5名拉致
メンバー減少・資金難で誘拐ビジネスに
ところがフィリピン軍の度重なる攻勢でアブ・サヤフはその活動地域が狭まり、メンバーも減少。活動資金が枯渇する事態になり、最近はマレーシア人やインドネシア人の漁船を襲って漁民を誘拐して身代金を奪取する「誘拐ビジネス」に手を染めるようになっているという。
かつては外国人も誘拐して身代金を外国政府などに要求していたが、近年はフィリピン南部が「誘拐危険地帯」であることが周知され、アブ・サヤフの活動地域に出入りする外国人が減少した。
このため、アブ・サヤフは誘拐の主要ターゲットを隣国マレーシアやインドネシアの漁船員に絞って犯行に及んでいるものとフィリピン軍などは分析している。
2019年8月には今回の誘拐事件と同じサバ州沖の海域で操業中だったインドネシアの漁船を襲い、乗組員のインドネシア人漁民3人が誘拐されている。
この時の誘拐事件ではフィリピン軍が情報収集の末、人質となっていたインドネシア人の居所を突き止めスールー諸島で奪還作戦を決行。9月に2人を解放、そして最後の1人を1月15日に奪還、解放することに成功している。
今回の誘拐事件が1月16日に発生していることからフィリピン治安当局はアブ・サヤフによる軍の奪還作戦への報復との見方を示している。
機能しない3カ国共同の警戒警備
サバ州沖海域ではこうした誘拐事件や国際的なテロ組織や東南アジアのテロ組織のメンバーがフィリピン南部とマレーシア、インドネシアを行き来する際の密航ルートになっていることから2017年にフィリピン、マレーシア、インドネシア3カ国による海上法執行機関や海軍の艦艇、さらに空軍の航空機などによる共同パトロールに関する取り決めが署名調印されている。
その後しばらくは同海域での誘拐事件は沈静化したものの、2018年9月以降再び活発化してこれまでに少なくとも5件の誘拐事件が起きているという。
このため3カ国間の取り決めの実効性が問われる事態となっている。インドネシア軍関係者は「今回の事件はマレーシア領海内で発生しており、主権侵害にあたるのでインドネシア軍としてはどうすることもできない」と問題点を指摘する。
フィリピン当局も「共同の警戒監視はそれなりに効果をあげていると思うが、広大な海域だけに十分でないことは事実」(フィリピン軍西ミンダナオ軍管区報道官)との見方を示している。
今回の誘拐事件発生を受けて、3カ国の関係者による協議が行われ、インドネシア人漁民3人の早期解放を目指すことで一致するとともに、さらなる誘拐事件を防ぐために警戒監視の強化と「実効性を高める方法」についても今後検討することになった。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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