最新記事

BOOKS

トイレの前でズボンを脱ぎ、下半身パンツ1枚で待つ。これが刑務所生活の実態だ

2020年1月24日(金)17時55分
印南敦史(作家、書評家)

もしも矯正施設に長期間入れておいたとしたら、彼らは実社会に出たとき社会になじめず、復帰が難しくなる。だとすれば、入ってもなるべく早く出てもらうか、もしくは最初から入れないほうがいいという考え方なのだ。

特に職を持っている受刑者は、入れないにこしたことはないと考えられるという。なぜなら、自活能力があるからだ。そんなに単純な話なのかと疑いたくもなるが、実際のところ新受刑者の68.4%は無職という統計もあるという。

それに現実問題として、受刑者になるのは本人の資質、あるいは運命めいたものも影響するのだと著者は指摘している。


(前略)というのも、新受刑者の最終学歴の統計を見ると、半数近くが中卒以下となっている。
 そのほかの内訳は、高校中退が二割以上で、高校卒業以上の学歴を持つ者は全体の三割程度である。
 高校進学率が99%と言われる中で、中卒という道を選ぶのには、財政的な理由や知力的な理由など、人生において何らかのハンディがあると推測される。(17〜18ページより)

日本の人口比で考えてみても、受刑者の数は数千人にひとりというレベルで非常に少ない。学校にひとりはいる札付きのワルであっても、刑務所に入ることは非常に難しいらしい。


 定職にも就かず、反省もせず、何度も同じ過ちをして収容される。累犯者の多くはこのような人々であり、一般的市民とは住む世界が違うと言っても過言ではない。(18ページより)

「○○が△△の罪で逮捕された」といったニュースを日常的に見聞きしていると、捕まった人たちはみな刑務所に送られるというイメージを抱きがちだ。しかし、そう単純なものではないのだ。

とはいえ、どこにでもいそうな一般市民が1回の犯罪で刑務所に入る場合も当然ある。これも報道でよく耳にするフレーズではあるが、「つい、カッとなってヤッてしまった――」というような突発的殺人、もしくは傷害致死という罪だ。

人の死が絡んでいる重大事件だけは、服役を免れることができないということ。ただし、そのような凶悪事件で実刑に処されるのは、実際のところ年間200件程度しかないという。

初めて刑務所に入るのは年間あたり1万人程度で、その半分が初犯。つまり母数から考えると、凶悪事件の比率は全体の数%にも満たない特異な例ということになる。


 刑務所に入る事例として現実的に考えられるのは、出来心で万引きしたという場合である。
 その際、おとなしく捕まらず店員を突き飛ばしてケガをさせた場合は、強盗致傷にあたるので実刑で三年は食らう。おとなしく捕まったら万引きで不起訴処分になり、捕まった時に暴れて店員に少しでもケガをさせたら強盗致傷で一発アウトというのは、逃げさせないという刑事政策的な観点からはともかく、罰が重すぎるのではないかという論争になっている。(19ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中