決済や送金に乗り出すSNSが、それでも銀行を破滅させない訳
THE RISE IN SOCIAL MEDIA PAYMENTS
ソーシャルメディアの決済・送金サービスやその他のフィンテック(金融とテクノロジーの融合)企業の利用が増えれば、銀行は人々のお金と金融関連情報を守る「特別な存在」ではなくなるかもしれない。
コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーが2017年に13万人以上の銀行利用者を対象に行った調査によると、アメリカとイギリスでは、オンライン企業のペイパルやが銀行にほぼ匹敵する信頼を得ている。
しかし、従来型金融機関が崩壊すると決まったわけではない。ソーシャルメディアによる決済・送金サービスに対する需要の高まりを追い風にできる可能性もある。
金融機関とSNSが相互補完
カギを握るのは、セキュリティーと本人認証。いずれもソーシャルメディア企業の弱点だ。
最近、ソーシャルメディア企業は、ユーザーのデータに関するセキュリティーと、個人情報保護規則の遵守をめぐって厳しい目を向けられている。フェイスブックでもデータ流出などの不祥事が相次ぎ、ユーザーの不信感も高まっている。
サイバーセキュリティーの専門家たちは、ソーシャルメディア企業が決済・送金サービスに乗り出したときからセキュリティー上の問題に警鐘を鳴らしていた。
そもそもソーシャルメディアの本来の機能は、ユーザーに金融取引の手段を提供することではなく、ユーザー同士の交流を助けることだ。そのため、ユーザーはソーシャルメディアの金融サービスを利用するときも、セキュリティーをあまり気に掛けない場合がある。
その結果、ユーザーはしばしばセキュリティー意識の低い行動を取ってしまう。シンプルで推測されやすいパスワードを使ったり、手間を惜しんで安易に情報を1カ所に保管したりすることが多い。このような無警戒な態度を取ると、悪意を持った人物に情報を盗まれたり、成り済まし被害に遭ったり、お金を奪われたりしやすくなる。
それだけではない。ソーシャルメディアは、ユーザーについての価値ある情報を大量に蓄え続けている。悪意を持った人物がそうしたデータにアクセスすれば、それを利用してユーザーに成り済まして、ほかのユーザーをだまして送金させたり、金融関連の秘密の情報を聞き出したりしかねない。
ソーシャルメディアを通じた決済・送金サービスの市場が拡大し、その種のサービスを通じてやりとりされる金額や個人情報がもっと増加すれば、当局も黙って見てはいないだろう。監督官庁が消費者保護に乗り出す可能性が高い。
ここに、銀行などの従来型金融機関の出番が生まれる。信頼性とセキュリティーの高さには定評があるし、複雑な規制に対処する経験と知識もある。これらは、ソーシャルメディア企業が持っていない強みだ。
従来型金融機関とソーシャルメディア企業の両方がそれぞれ弱点を持っていることは間違いない。しかし両者が手を組むことにより、互いの弱点を補い合える。そうすれば、今日の消費者が金融サービスに求め始めた新しいニーズに応え、シームレスで安全な決済・送金サービスを提供できるだろう。
<本誌2019年12月10日号 「仮想通貨ウォーズ」特集より>
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