中国経済の強みと弱み──SWOT分析と今後の展開
しかし、人口増加率の低下以上に経済成長にマイナスとなるのが生産年齢人口(15~64歳)の減少である。人口ピラミッドを見ると、現在生産年齢に位置する人口が多く、これから生産年齢に達する14歳以下の人口が少なく、定年退職が視野に入り始める50歳台の人口が多い「つぼ型」となっている。若年層が多く高齢層が少ない「富士山型」の時期には、新たに経済活動に従事する労働力が年々増えるため、所得の伸びも高くなり経済成長を後押していた(人口ボーナス)。しかし、「つぼ型」の人口ピラミッドになると、新たに経済活動に従事する労働力が年々減少するため、経済成長の足かせとなる(人口オーナス)。そして、財やサービスの生産をする上で中心的な役割を担う生産年齢人口は、既に2013年の10億582万人をピークに減少に転じており、今後も減少傾向は続く見込みである(図表-2)。
また、中国の従属人口比率(0~14歳と65歳以上の人口の合計÷生産年齢人口)の推移をみると、1970年代に8割弱の高水準にあった従属人口比率は、出生数の減少により若年従属人口比率(0~14歳の人口÷生産年齢人口)が4割前後まで低下、「人口ボーナス」をもたらした。今後も若年従属人口比率の低下は続くと見られるが、今後は高齢従属人口比率(65才以上の人口÷生産年齢人口)が上昇ピッチを速めることから、従属人口比率は上昇して「人口オーナス」をもたらす見込みである。そして、中国共産党は前述の第18期3中全会で「漸進的な定年引き上げ政策を研究・策定する」との方針を示し、その悪影響の緩和に動き出した。しかし、先進国に発展する前に高齢化が進む「未豊先老(豊かになる前に高齢化社会になる)」の懸念が高まっている。
2|過剰設備・債務問題
文化大革命を終えて1978年に改革開放に乗り出した中国は、まずは生産責任制で農業改革を軌道に乗せた後、外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、工業製品の輸出で外貨を稼ぐことに注力した。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えていった。この優れた生産環境と安価で豊富な労働力を求めて、世界から工場が集まり中国は「世界の工場」と呼ばれるまでの経済発展を遂げることとなった。
しかし、経済発展とともに賃金など製造コストも上昇したため、中国にあった工場が安価で豊富な労働力を求めてベトナムやインドなど後発新興国へ流出し始めた。一人当たりGDPが世界の中央値となり「中所得国の罠2」と呼ばれる経済成長の壁に直面したのである(図表-3)。さらに、米中貿易摩擦の激化がそれに追い打ちをかけることとなった。
そして、国内の工場が後発新興国へ流出し始める中で、国内では生産設備の過剰感が高まり、貸借対照表(バランスシート)では債務にも過剰感がでてきた。こうして発生した過剰設備・債務問題を一気に処理すれば、そこで働く労働者も過剰となり失業者が街に溢れて社会問題となりかねなかったため、淘汰すべき企業を政府が支援して生き延びさせ「ゾンビ企業」となったことで債務はさらに膨れ上がり、非金融企業の債務残高(対GDP比)は150%を超えた(図表-4)。そして、2017年の党大会(19大)後、中国は経済成長にマイナスの影響を与える債務圧縮(デレバレッジ)に舵を切り、無理に高成長を追い求めるのは二の次にして、金融リスクの防止・解消を進めることとなった。
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2 「中所得国の罠」の詳細は『3つの切り口からつかむ図表中国経済』(白桃書房、2019年)の176~183ぺージをご参照ください