最新記事

中国経済

中国経済の強みと弱み──SWOT分析と今後の展開

2019年12月5日(木)11時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

Nissei191203_2.jpg

しかし、人口増加率の低下以上に経済成長にマイナスとなるのが生産年齢人口(15~64歳)の減少である。人口ピラミッドを見ると、現在生産年齢に位置する人口が多く、これから生産年齢に達する14歳以下の人口が少なく、定年退職が視野に入り始める50歳台の人口が多い「つぼ型」となっている。若年層が多く高齢層が少ない「富士山型」の時期には、新たに経済活動に従事する労働力が年々増えるため、所得の伸びも高くなり経済成長を後押していた(人口ボーナス)。しかし、「つぼ型」の人口ピラミッドになると、新たに経済活動に従事する労働力が年々減少するため、経済成長の足かせとなる(人口オーナス)。そして、財やサービスの生産をする上で中心的な役割を担う生産年齢人口は、既に2013年の10億582万人をピークに減少に転じており、今後も減少傾向は続く見込みである(図表-2)。

また、中国の従属人口比率(0~14歳と65歳以上の人口の合計÷生産年齢人口)の推移をみると、1970年代に8割弱の高水準にあった従属人口比率は、出生数の減少により若年従属人口比率(0~14歳の人口÷生産年齢人口)が4割前後まで低下、「人口ボーナス」をもたらした。今後も若年従属人口比率の低下は続くと見られるが、今後は高齢従属人口比率(65才以上の人口÷生産年齢人口)が上昇ピッチを速めることから、従属人口比率は上昇して「人口オーナス」をもたらす見込みである。そして、中国共産党は前述の第18期3中全会で「漸進的な定年引き上げ政策を研究・策定する」との方針を示し、その悪影響の緩和に動き出した。しかし、先進国に発展する前に高齢化が進む「未豊先老(豊かになる前に高齢化社会になる)」の懸念が高まっている。

2|過剰設備・債務問題

文化大革命を終えて1978年に改革開放に乗り出した中国は、まずは生産責任制で農業改革を軌道に乗せた後、外国資本の導入を積極化して工業生産を伸ばし、工業製品の輸出で外貨を稼ぐことに注力した。稼いだ外貨は主に生産効率改善に資するインフラ整備に回され、中国は世界でも有数の生産環境を整えていった。この優れた生産環境と安価で豊富な労働力を求めて、世界から工場が集まり中国は「世界の工場」と呼ばれるまでの経済発展を遂げることとなった。

しかし、経済発展とともに賃金など製造コストも上昇したため、中国にあった工場が安価で豊富な労働力を求めてベトナムやインドなど後発新興国へ流出し始めた。一人当たりGDPが世界の中央値となり「中所得国の罠2」と呼ばれる経済成長の壁に直面したのである(図表-3)。さらに、米中貿易摩擦の激化がそれに追い打ちをかけることとなった。

そして、国内の工場が後発新興国へ流出し始める中で、国内では生産設備の過剰感が高まり、貸借対照表(バランスシート)では債務にも過剰感がでてきた。こうして発生した過剰設備・債務問題を一気に処理すれば、そこで働く労働者も過剰となり失業者が街に溢れて社会問題となりかねなかったため、淘汰すべき企業を政府が支援して生き延びさせ「ゾンビ企業」となったことで債務はさらに膨れ上がり、非金融企業の債務残高(対GDP比)は150%を超えた(図表-4)。そして、2017年の党大会(19大)後、中国は経済成長にマイナスの影響を与える債務圧縮(デレバレッジ)に舵を切り、無理に高成長を追い求めるのは二の次にして、金融リスクの防止・解消を進めることとなった。

Nissei191203_3_4.jpg

―――――――――――
2 「中所得国の罠」の詳細は『3つの切り口からつかむ図表中国経済』(白桃書房、2019年)の176~183ぺージをご参照ください

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オリックス、再エネの持ち分法適用会社売却 次世代エ

ビジネス

英住宅売却希望価格、年初の上昇率は20年以来最大=

ビジネス

日経平均は反発、一時3万9000円回復 幅広い銘柄

ワールド

インドネシア大統領、支持率81% 無料給食など評価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 8
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中