ハイチの治安は最悪レベルの無法状態、ギャングと当局の癒着疑惑も
ギャングによる暴力が横行するスラムから逃れ、市役所の中庭で避難生活を送る市民。12月7日、ポルトープランスで撮影(2019年 ロイター/Valerie Baeriswyl)
ベニト・バーナードさんの足は傷つき、血がにじんでいる。幼い子どもたちを連れて粗末な小屋を逃げ出した彼女は、サンダルを突っかける暇さえなかったと話す。
ハイチの首都ポルトープランスで最も評判の悪いスラム街をギャングが徘徊し、民家に押し入って発砲したためだ。
47歳のバーナードさんとその家族は、現在、ポルトープランス市内のシテ・ソレイユ区役所の中庭で避難生活を送っている。同じように騒乱状態から逃げてきた市民は200人以上。この国は、市民の一部指導者いわく、過去10年以上の間で最悪の無法状態にある。
「連中は住民の家に押し入り、殴りつけ、発砲した」。木陰に広げた敷物に横たわるバーナードさんは、涙ながらにそう語る。「誰もが逃げ出した。だから私も子どもたちを連れて、急いで家を離れた」
国連の平和維持部隊は15年間の駐留を終え、2017年にハイチから撤収した。人口の6割近くが1日2ドル40セント以下で生活する、南北アメリカ大陸の最貧国ハイチの法と秩序はしたという建前だ。
だが、部隊が撤収した後には治安の空白状態が残された。この1年間、治安部隊がモイーズ大統領に対する抗議行動への対処に追われたため、治安悪化はいっそう深刻になった。
国連ハイチ司法支援ミッションのセルジ・テリオー警察部門長官は、メディアとのインタビューで、「リソースに限りがあるため、ハイチの警察は犯罪組織の活動を思うように抑制できていない」と語った。
急速なインフレの進行を伴う経済悪化と低所得地区への投資不足により、犯罪は深刻化し、そのレベルは一線を越えた。
外交関係者は、こうした状況によって地域の安定に対する脅威が高まっており、移民や麻薬・武器密輸といった動きにも波及するのではないかと懸念しており、国際社会でも警戒感が生じている。米連邦議会下院の外交委員会は10日、ハイチに関する公聴会を開催した。この20年間で初めてのことだ。
モイーズ大統領はすでに国内を統治する力を失い、辞任すべきと批判されている。一方、51歳の大統領は状況はすでに沈静化しつつあり、任期満了まで務めるとしている。
住民によると、ギャングは縄張りを争い、「みかじめ料」を徴収し、麻薬や武器を売買しているという。
人権活動家や一般の国民は、政治家は与野党関係なく反政府運動の抑圧や扇動のために犯罪組織を利用しており、武器の供与や犯罪の揉み消しに協力していると話す。
シテ・ソレイユ地区に住むウィリアム・ドレリュスさんは、「ギャングは政権から金をもらい、市民が反政府抗議行動に参加するのを妨害する」と語る。「野党側から金をもらえば、むりやり街頭行動に動員しようとする」
政府も野党指導者も、こうした疑惑を否定している。