最新記事

犯罪

エアバス初号機で飛んできたのは密輸のハーレー ガルーダ航空、私物化のCEOを解任

2019年12月11日(水)18時51分
大塚智彦(PanAsiaNews)

経営改善で抜擢も手腕に疑問の声続出

ガルーダ航空は2022年までに今回「密輸」に使われたエアバス社のA330-900型機を合計で14機導入する計画で、アスカラCEOがハーレーダビットソンのバイクと共に搭乗してきたのはその初号機だった。

今回、トヒル国営企業相がアンカラCEOの早期解任を決めたことについてガルーダ航空の客室乗務員組合など関係者は「迅速な対応を歓迎する」と支持する声明を発表している。

国営建設会社幹部や国営港湾会社ベリンド社の社長などを歴任してきたアスカラCEOは、経営難のガルーダ航空の財政立て直しを託されて2018年にトップに抜擢された。ただ、同社の乗員組合関係者からは「就任当初から問題の多い人物だった」とその経営手腕を疑問視する声がでていたという。

具体的には、長距離飛行の乗務員の交代サイクルを短縮化して過労を強いた、CAなどに残業を強要した、不当な理由で機上勤務社員を地上勤務に配置転換したなど、経営合理化を旗印に乗務員らへ過大な要求が続き、現場には疲労感が溢れていたという。

ガルーダ航空は12月6日の幹部会で今回のCEO密輸事件に関与したとして取締役4人を職務停止処分とし、フアド・リザル取締役(財務・リスクマネジメント担当)を当面の社長兼CEO代行に指名した。停職処分を受けた4人の取締役のうち3人はアスカラCEOと同じデリバリーフライトに搭乗していたことが確認されているという。

CAなどによる密輸事件は後を絶たず

今回のガルーダ航空に限らず、航空会社の乗務員による密輸は珍しいことではなく、2019年9月にはイタリアからのタイ国際航空便に搭乗していた女性CAがイタリアの高級ブランド品を制服の下に巻き付けて「密輸」を図り、バンコク空港の税関に摘発されている。また同社の男性CAがタイでは禁止されている加熱式タバコを大量にもち込もうとして摘発されたケースもある。

航空会社のパイロットやCAは制服姿であることや身分証を明示しているため出入国管理所でも税関でも一般の乗客に比べて比較的チェックが緩やかなことから、ブランド品の税金逃れや禁制品の持ち込みを図る事件が後を絶たない。

しかし今回のガルーダ航空のケースは会社のトップであるCEOが、こともあろうに新型機のデリバリーフライトを利用して「密輸」をしようとした点で異例。国の顔でもあるフラッグキャリアの名を汚す行為にインドネシア人の怒りは収まる気配をみせていない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中