最新記事

アメリカ政治

トランプ弾劾訴追、「2つの罪」に絞ったペロシが正しい理由

On The Articles of Impeachment

2019年12月16日(月)17時05分
リチャード・ヘイセン(カリフォルニア大学アーバイン校法学部教授)

弾劾訴状案を審議する下院司法委員会(12月12日) ANDREW HARRER-POOL-REUTERS

<訴追理由に「ロシア疑惑」や「収賄」も入れるべきだったという声があるが......。下院本会議で可決されれば、米史上3回目となる弾劾裁判が年明け早々にも開廷する>

米下院司法委員会はドナルド・トランプ米大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾訴追条項案を起草し、12月13日にこれを可決した。一方、下院を率いる民主党が起訴理由に相当する「弾劾訴追条項」を2つに絞ったことには、反トランプ派から疑問視する声が上がっていた。トランプの数々の行動を考えればより多くの罪に問えただろうし、弾劾手続きにもっと長時間かけることもできたはず、と。

だが、ナンシー・ペロシ下院議長のやり方は正しかった。2つの訴追条項は簡潔で、しかも当を得ている。

1つ目の弾劾条項としたのは、トランプがウクライナに対し、来年の大統領選で政敵となる民主党のジョー・バイデン前副大統領を調査するよう圧力をかける目的で、軍事支援とウクライナ大統領との首脳会談を保留にしたという「権力乱用」だ。もう1つは、議会が弾劾調査に関わる書類の提出や関係者の議会証言を求めた際、それらを無視するよう部下に命じたという「議会妨害」である。

しかし、弾劾事項を2つに絞ったことに対し、訴追理由に「ロシア疑惑」も含めるべきだった、との声が上がった。

確かに弾劾訴追条項案は、ロシア疑惑の調査結果である「ムラー報告書」に直接的には触れていない。だが、トランプが2016年の大統領選で対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官のメールをリークするようロシアに教唆し、また最近、中国政府に対してバイデンの汚職を調べるべきと発言したことを、ウクライナ疑惑に結び付けてはいる。「これらは、大統領選において外国政府の介入を招いたというトランプ大統領の過去の行動と一貫性がある」と、条項では指摘する。

年明け早々に幕が開く

ムラー報告書には弾劾訴追に有利に働き得る内容も含まれてはいたが、ロシア疑惑でトランプを追い詰めようという政治的機運はついに実を結ぶことなく終わった。

民主党は、ロシア疑惑という「過去の話」を蒸し返すことで弾劾訴追への賛成票をいくつか失うこともあり得ただろう。現に民主党内の穏健派勢力はたった2つの弾劾理由にさえ及び腰だ。これ以上の弾劾理由を並べれば、さらなる反発を招いた可能性がある。

次に、弾劾理由に「収賄」を入れるべきだったという声も噴出した。背景には、合衆国憲法が、大統領を弾劾する理由として「反逆罪、収賄罪または重罪や軽罪」と明示していることがある。しかし「収賄」を含めれば、トランプが「恐喝」したか否かなど新たな争点を生み、弾劾訴追の反対派に追及する隙を与える結果となっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中