独裁体制の置き土産が中南米で新たなデモを呼ぶ
Pinochet Still Looms Large in Chilean Politics
実際、ピノチェト時代のエリート層は1990年代前半に、労働改革と税制改革を首尾よく骨抜きにした。富裕層に害を及ぼし、独裁政権時代からの自分たちの権益を脅かしそうな改革だと考えたからだ。チリは現在、中南米の中でも、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも、最も不平等な国の1つだ。
言うまでもなく、深刻な不平等は今回の抗議デモの主要な標的になっている。地下鉄の運賃値上げに対する小さな抗議が、政治の根本的な変化を求める大きなうねりに発展し、エリート層全体が市民の日常生活を理解していないと見なされている。
同じようなプロセスは中南米各地で繰り広げられている。ペルーでは憲法裁判所判事の指名をめぐって大統領と野党の対立が続き、10月に大規模な抗議デモが起きた。
対立の発端は、独裁的な政権運営をしていたアルベルト・フジモリ大統領(当時)が2000年に汚職疑惑で失脚したことにさかのぼる。
その直後は、フジモリ時代のエリート層は政権から事実上、締め出されていた。しかし2007年には、フジモリ派の国会議員や閣僚が議会や地方自治体の要職に就くようになった。さらに、長女のケイコ・フジモリの下にフジモリ派のさまざまな勢力が集まって新しい政党を結成。2016年の総選挙では野党ながら第1党に躍り出た。
ケイコが率いる人民勢力党は昨年3月に大統領を辞任に追い込み、汚職捜査を妨害し、司法改革の機運を無視して自分たちに都合のいい判事を押し込もうとしている。ペルーの国民がうんざりして、人民勢力党やエリートたちの影響力を弱めるべきだと主張するようになったのも不思議ではない。
民意と懸け離れた政治
チリやペルーと同じように、メキシコ、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグア、ブラジルでも、民主化後に独裁政権時代のエリートが過去の悪事で罰せられることはなく、権力の座から排除されることもなかった。
例えば、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領はかつて軍事政権を称賛していた元陸軍大尉で、政権運営に当たって軍時代の仲間を重用している。
もちろん、独裁政権時代のエリート層の影響力が続いているというだけで、反政府運動が広まるわけではない。しかし、経済成長が停滞すれば、彼らの影響力が改めて注目を浴びやすい。司法制度や政党、既成当局が腐敗を放置して増殖させてきた国では、特にその傾向があるだろう。