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ラグビーW杯

「金持ち」イングランドを破った南アフリカの必然

Money Can't Change Everything

2019年11月5日(火)07時00分
長岡義博(本誌編集長)

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決勝戦後、記者会見する南アフリカ代表キャプテンのコリシ(左)とヘッドコーチのエラスムス Newsweek Japan

それでも今回、決勝で南アフリカがイングランドを蹴散らしたのは、ラグビーが「足し算」だけでは計れないスポーツだからだ。金持ちの協会が有利なら、イングランドが南アフリカに負けるはずがない。ニュージーランドや南アフリカにとって、ラグビーは単なるスポーツを超えた文化である。宗教といってもいい。

加えて、今回の南アフリカ国内にはキャプテンのシヤ・コリシが何度も言ったように「いろいろな問題」があるが、困難な時にラグビーがこの国をまとめる大きな力になる。95年の第3回大会でマンデラが白人支配の象徴だった代表チームであるスプリングボクスのジャージを着て優勝を祝った。今回はチーム史上初めての黒人キャプテンであり、貧困層出身でもあるコリシが優勝杯のウェブ・エリス・カップを高々と掲げた。

経済力だけを比較すれば、ラグビーの「南高北低」は崩れかけている。水は高いところから低いところへと流れる。選手が高額の報酬とハイレベルなプレーを求めて海外移籍するのを止めるのは難しい(今はかたくななニュージーランドもいずれ容認するかもしれない)。

「経費がかかるのに売り上げが立てにくい」スポーツ

でも、人はカネだけを求めてラグビーをするのではない。金儲けだけならもっと他に効率のいいスポーツやビジネスがある。スポーツで最も多い1チーム15人がプレーするが、肉体的なダメージが大きいので基本週に1回しか試合のできないラグビーは、「経費がかかるのに売り上げが立てにくい」やっかいなビジネスモデルだ。ほかのプロスポーツに比べて、選手の報酬がなかなか上がらない理由はそこにある。それでも人がラグビーをするのは、そこにカネ以外に価値を見出すからだ。

ラグビーは変わった。でも、ラグビーは変わらない。だからこそ、南アフリカは横浜でイングランドを打ちのめすことができたのだ。

【参考記事】ラグビー場に旭日旗はいらない

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