最新記事

LGBT

「LGBTは国立大に相応しくない」と訴え棄却 インドネシア、大学文芸誌の同性愛小説で学生敗訴

2019年11月18日(月)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

写真はイメージ lechatnoir - iStockphoto

<宗教や文化の多様性を国民統合の国是としている国で、少数派への締め付けが強まっている──>

大学文芸誌に掲載された小説が「レスビアン」をテーマにしていることを理由に筆者を含む文芸誌編集部員が大学側に解任させられた処分を不当として訴えていた裁判で、インドネシア・スマトラ島の北スマトラ州メダンの州行政裁判所は11月14日、学生側の訴えを却下するとともに裁判費用の支払いを命じる大学側全面勝訴の判決を言い渡した。主要英字紙「ジャカルタ・ポスト」(電子版)が11月16日に伝えた。

それによると、メダンにある国立北スマトラ大学(USU)の学生が編集・発行している文芸雑誌「USUの声」のウェブ版に3月12日、同大の女子学生ヤエル・ステファニ・シナガさんが執筆した短編小説「彼女のそばに寄り添う私に誰もが反対した時」が掲載された。

ところが掲載直後に大学当局が同小説の削除を要求。その理由は小説の内容が大学生の女性が同じ大学の女性を愛し、結婚を求めるという同性愛の世界を描いたもので「大学の文芸誌としてふさわしくない」というものだった。

これに対し「USUの声」編集部は「表現の自由」「大学内の自治」を掲げて大学側の小説削除要求に反対、抵抗を続けた。こうした学生側の姿勢に大学側も態度を硬化、学長名でウェブサイトの閉鎖と編集幹部を務めるヤエルさん以下18人の編集委員全員の解任を通告してきた。

このためヤエルさんらは学長ら大学側を相手取り、ウェブサイトの閉鎖、編集委員解任などの大学側の措置撤回を求める裁判をメダン州行政裁判所に起こしていた(「女子学生のレスビアン小説、大学当局が削除命令 多様性と寛容が消えゆくインドネシア」)。

冒涜の言葉を浴びせかけられ失恋

問題となったヤエルさんの短編小説は、事業に失敗した父と政府批判で当局に追われる身となったジャーナリストの母の元から祖父に預けられた一人の女性のストーリー。周囲に気を配り目立たないようにと祖父の手で育てられ、内向的になった女性が大学に進学して学内で女子大生と出会い、親交を深めるにつれて恋に落ちる。

そしてその恋人でもある相手の女性が男性と結婚することになり、主人公は結婚式場に押しかけて彼女に「私と結婚して」と式典参加者の前で告白した。ところが周囲の人にひきずり出され、服も破られ「百万の目が怒りで私を射抜き、冒涜の言葉が口角を飛ばして浴びせかけられた。愛する彼女でさえ私を見つめるだけだった」(原文インドネシア語)と小説は悲劇的な幕切れで終わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ルーマニア大統領選、親ロ極右候補躍進でT

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中